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｢だ…っだいじょ｣
｢じゃねぇだろ｣
連れてこられた空き教室内で椅子に座る自身と跪く轟の声が交差した。
痛みと羞恥でぐちゃぐちゃになった顔で日彩は轟の"上履きと靴下を脱げ。足を冷やす"という申し出に必死で抗っていた。勝手に恋慕していた挙句、轟の気持ちを盗み聞きし、結果、自分を守るために彼を避けた。轟に対してあまりにも不適切な対応をしたことを自覚していたからこそAはそのオッドアイを直視することが出来ずに俯いたまま轟の優しさを拒絶し続けていた。しかし、直後、目の前の面が良い男は痺れを切らしたのであろう。
｢脱がすぞ｣
｢え！？ひっ……つめた…っい｣
ここで折れる訳にはいかないと数分の押し問答の末に勝手に脱がすという暴挙に出た。
丁寧な手つきで上履きと靴下を剥ぎ取られた日彩はひんやりとしたその感触に身震いを起こす。彼の右手が熱を灯した自身の腫れた右足首辺りを触れている。その事実が彼女の羞恥心を更に煽った。
痛みを与えないようにと自身の足首を優しく何度も往復するゴツゴツとした男の手。腫れ物を扱うように丁寧に丁寧に冷やされていく様を自身の灰色で見下ろす。好きな異性に洗ってもいない素足を触られるなんて、と怖がっていた己が恥ずかしいほどに轟焦凍は丁寧に健全な治療行為を施してくれた。
｢なぁ。日彩｣
｢最近、俺のこと避けてねぇか｣
しかし、数分間の治療行為という名前の沈黙の後。継ぎ接ぎだらけだった静寂を轟焦凍が文字通りその声で、遮った。ひゅっと言葉にならない悲鳴が日彩の口から溢れ、熱を孕んだ轟の持つオッドアイが捕食者の如くそんな彼女の身体を蝕む。
不機嫌な様子を全面的に表す男。ムッと口を尖らせ頭上に淀んだ紫色を覗かせる轟焦凍の問に対して答えに戸惑ってしまったA。"そんなことはない"という簡単な文字すら紡ぐことが出来なかった。
自分と轟以外誰もいない空き教室。薄暗い教室内に互いの呼吸する音が溶けて消えていく。この男は昔から物事の本質に対してストレートにぶつかってくる男だった。いつもは偽ることを苦手とする日彩だったが、今回だけは核心を抉るような質問に答えることが出来なかった。
そう。答えられるわけが無かった。好きな人に想い人が居て。告白すらしていないのに失恋したから避けてましたなんて口が裂けても言えないだろ。
不安げに震える紫色から視線を自身の太腿に添える拳へと下ろす。
｢…さ、けてなんかいないよ｣
そして、跪く轟のオッドアイも頭上に並ぶ棒グラフも視界に映さないように言葉を吐き捨てた。
ちぐはぐで、嘘に塗れた、偽り。
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吹雪 - なんかとてもすごいお話でした…！(語彙力がなくてどう伝えればよいのか…)この作品ずっと前にみはじめて、完結を楽しみにしていました！ (2022年8月21日 11時) (
レス) @page13 id: ad117a8b13 (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - 蒼音さん» いつもお話を読んで下さり、また沢山のご感想をコメントしてくださりありがとうございます。私が表したかった、人の欲深い感情を読み取っていただけてとても嬉しく思っております。あと少しで完結ですので宜しければ最後までお付き合いお願いします！！ (2021年10月24日 22時) (レス) @page11 id: 2bb1ee999a (このIDを非表示/違反報告)
蒼音 - 今まで、ライバルがいたり悲恋だったりするお話は読んでいて辛くて苦手だったのですが、この作品は辛いけれどそれだけじゃなくて、リアルな心情の描写があって、ついのめり込んでしまいました！笑更新されてないか何度も確認しに来ちゃいます笑更新楽しみにしてます！ (2021年10月18日 21時) (レス) @page11 id: 9c4579ad78 (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - かほさん» いつもお話を読んで下さり、またコメントまでありがとうございます！！続きを求めるお声を頂けて本当に本当に嬉しい限りでございます。あと少しで完結ではございますが、何卒最後までお付き合いの程、よろしくお願いします！！ (2021年10月3日 16時) (レス) @page10 id: 2bb1ee999a (このIDを非表示/違反報告)
かほ(プロフ) - いつも楽しく作品を拝見させて頂いてます！凄く続きが気になります！更新頑張ってください！ (2021年9月30日 16時) (レス) @page9 id: 325c7d0f3b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：砂時計
| 作成日時：2021年9月18日 23時
