契り【狗巻棘】

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｢と、げ…君？｣

無言でベッドに横たわる私を見下ろす彼に問いかけを投げかけるも返事は帰ってこない。いつもの意味のわからないおにぎりの具すら出てこない。

ギシリと鈍い音を立てながらベッドへと登ってくる男に心臓が嫌な音をたてる。

器用に履いていた靴を脱ぎ捨て、口元をすっぽりと隠していた首元のジッパーを下げる。無機質なそれらの音が自身の鼓動が加速する音と合わさって重なり合う。

薄暗いホテルの室内。徐々に視界がその暗闇に慣れ始める。彼の口元に描かれた蛇の目の模様が存在を見せる。

ジリジリと私の下半身を跨ぐように詰め寄ってくる彼の髪の毛が揺れ動き獲物を狙うかのような鋭い瞳が垣間見えた。





｢っ！？や、やめてっ｣



刹那、鈍い音とシーツの擦れる音を上げながら棘君に押し倒されるような体制で体を拘束される。目の前の現実に目眩がする。直ぐに口から拒絶の文字が綴られる。

しかし、彼の手は止まらることなんて知らないと言わんばかりに私の左手首を固定した後、反対の手で私の胸元へと触れ始める。

感触を確かめるかのように胸から腰までの身体のラインを撫で回すその手にぶわっと羞恥が巻き起こる。無言で行われるその行為に羞恥心と恐怖心が交互に溢れ出す。


｢ねえ、棘君！やめてってば…っやだ、よっ｣


拒絶するも動かす手をとめない彼に嫌だと震える唇を動かしながら懇願する。

冷たさを含んだ彼のその指が自身の履いているワンピースの裾を捲し上げ、太腿へと這わされた瞬間、悲鳴に近い声が漏れる。

男女の力の差を目の前で見せつけられ、どうしようもない行き場すら存在しないぐちゃぐちゃになった感情が乱されていく。

何故、彼がこのような横暴な行為をしているのか理解出来ないと脳が吐き捨てた次の瞬間、



｢…んふ…っんんっ｣

｢…っ｣


自身と彼の唇が重なり合う。酸素を吸い込むためのそれが塞がれる。棘君とキスという行為をしているのだと理解するのに時間なんてかからなかった。

胸の奥底に鍵まで閉めて押し込んだ感情がぶわりと溢れかえる。

何度も何度も角度を変えて繰り返される口付けに理性は焦りを見せるものの本能は、もっとと欲張り出す。



それと同時に


｢…っやっ、うぅ…っだ｣


愛も情も無いこの行為に心が酷く傷つき、声を荒らげる。震える唇でそれらを彼に伝えるも降り注がれるキスが止まることはなかった。

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