契り【狗巻棘】

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｢いいか？今日でお前と狗巻家の男との婚約を破棄とする｣
｢そして、俺が決めたこの男と籍をいれてもらう｣


父親、と呼ぶべき対象である男が早口で捲し立てるように言葉を吐き捨て、並べる。それらを黙って口を開かずに耳だけで拾い上げた。


自身の通う女学校から帰宅後、すぐに男の書斎に値する部屋へ来るように命じられる。そして、命じられた通り部屋へと入室し顔を合わせるやいなや冒頭の言葉を浴びせられた。


疲れているのか、ここ数ヶ月で顔が老けたであろう椅子に座ったまの父親の歪み切った表情を見下ろす。

その手元に置かれた見知らぬふくよかな男の写真を視界の隅に捉えながら聞こえないように溜息を噛み砕いた。



常峰。昔から呪術師の名家であり、私の存在を証明する名前の一部でもある。
そして、A。それが自身を判別するものであり、固有名詞である。


皺ひとつない制服のスカートを伸ばしながら濁った目をこちらへと向ける男に目線を直す。


呪術師とは呪術を使い呪霊を祓う者達を指す総称である。
そして、ここ常峰家はそんな呪術師を生業とする由緒正しき名家の1つに区分される。


結界操術という呪霊や呪力、術式等全てのものを跳ね除けるとする防御壁のようなもの操る術式を受け継ぐ家系、それが常峰だった。

帳とは似ているようで少しだけ違うものとされている。あまり仕組みまで詳しく勉強していないので知らないが。まあ、所謂、鉄壁の盾の一族と呼ばれているのだ。


そんなこの家は、代々、遺伝的に女の方が呪力が強く当主となるのは代々決まって女性とされている我が家。

しかし、数ヶ月前に当主であった母が亡くなったため、父が当主代理としてその席を受け継いだのだが、この男は母が亡くなった途端、今まで出来なかった己の欲求を満たすためだけに動くようになった。



｢聞いているのか？｣

｢…っ！…はい｣

いつまで経っても声を発しようとしない私に痺れを切らしたのだろう。父である男は自身と似た薄いミルクティー色の髪の毛を揺らしながら言葉を吐き捨てる


反射的に冷房のよく効いた室内に自身の乾いた声が響く
その声色が静けさを纏う空間に波紋が広がるかのように波を描く

2階の日当たりの良い端の位置に値する部屋だからだろう。備え付けられた窓からまだまだ青い空と肌を焦がすかのような日差しがこちらを覗く最中





｢狗巻棘との婚約は解消となる。そして来週、この男と見合いの席を設ける｣


父の低い声がより一層、響いた。

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