拝啓、ヒーローになる君へ【轟焦凍】 (ページ1)

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「あの子、助からずに死んじゃうよ」

人の叫び声と恐怖に染まった色と助けを求める涙が入り交じった夕方の街。

そんな街に自身の吐き出した言葉は消えていった。

時刻はちょうどさっき中学校の下校時刻を指した鐘の音が響いた直後あたり。

学校から真っ直ぐ家に帰ろうと歩き出して数分も経たずに事件は起きた。

いつもの街が個性を悪用する者に壊されていく現場を目の当たりにしたのだ。

ビルや建物などを次々に破壊し始めた敵にヒーローと呼ばれる正義の味方は挑む。

どこかでサイレンの音が木霊を始める。

何割かの確率で誰かしらが何かの超常能力、個性を持って生まれてくるこの世界。
その個性を悪用する者も出てくるようでそれを圧倒的な力でねじ伏せるヒーローは憧れの的である。

そんな世界だから今や子供たちの将来の夢は

あの現場で敵を止めようと
破壊されて倒れたビルにいる人達を救出しようと
怪我人を病院に運ぼうとする

トップヒーローになることに絞られるのだ。

ピリピリと張り詰められた現場でその光景を目に映しながらふとそんなことを考えていた。

野次馬というヤジが飛び交う街
取り押さえられた敵と正義の味方にカメラは向けられる。

そんなちっぽけな風景に嫌気が指す。
そんなことよりはやく、助けてあげて

心臓が嫌な音をたてはじめる。
不安と恐怖で心が叫ぶ。

たった1人のビルの瓦礫に挟まれた少女の姿だけが大きく映る。

「死ぬってどういうことだ…？」

自身の独り言に答えが返ってくるとは思ってもおらず思考が大きく驚く。

反射的に声の方を向くとそこには赤と白の髪を揺らすとクラスメイトの姿。

困惑の色を見せる彼の目が私の目とあった瞬間

「きゃあああ」

つんざくような瓦礫の破壊音
何かの崩れ去る音
大勢の悲鳴に近い叫び声

全てが交差する中、先程の少女が居た場所に半分壊れていたビルが倒れたのだ。

先程まで３桁は見えていた数字が0を指していた。

空気が冷えきったこの状況に背中を向け家に帰る道を再び歩み始めた。

誰かのために動ける正義に憧れるくせに何も動けない自分に腹が立つ。

ヒーローとはなんですか。