引き継ぎ屋弐 (ページ9)

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五十九ページ9

「どうか、されましたか？」

裾を引いたのは、小夜左文字。
彼の手には、まだ盛り付けられていないのか、真新しい食器がある。

「これ、あなたに」

「！いいえ、私は」

差し出された食器。
私は、首を振るが小夜左文字は、尚も差し出し続ける。

「貴女も貰ってはいかがでしょうか」

声をかけられ、顔を上げるとそこに微笑んだ江雪左文字の姿がある。

「それは、もう貰い手が無いモノなのです」

「！しかし、私は部外者ですから」

「いいえ」

薄く開いた瞳が私に向けられる。

「仮とはいえ、貴女は審神者としてこの本丸にある身。全く無関係ではありません」

「それは、そうですが」

戸惑いも、恐れも、何もかもを見透かす目から逃れる様に目を晒す。

「私には、頂けません。それは、私に向けられた想い(もの)ではありませんから。相応しい方は他にも居ますよ」

失礼のない様に一礼をして逃げる様に踵を返し、距離を作る。

埋めてはならない。
この溝は、引き継ぎ屋として、保たなければならない。

宛など何もないのに、私の足は気がつけば縋るように中庭にある桜の木の下にいた。

薄紅色の花弁は、所々新芽を出して、葉桜になっていた。

「もう、春も終わりますか」

この本丸も季節が巡る。
きっと、梅雨を抜けて夏が来る頃には、私は用済み。

「刀剣たちが、主人を選ぶ。そんな人間地味た要請を政府が受け入れるでしょうか」

肉体を得て、人の身なりをした刀剣たち。
だが、その本質はやはり人間とはまるで違う。

一々、刀剣たちの要望を通すなど、これまで聞いたことがない。

「まして、秘密裏に隠蔽されていた事案もありますし、機会があれば、必ず前任のような体質の人間が選ばれるでしょうから」

考えれば考えるほど、政府の方針が刀剣たちの望まない現実へと変換される。

「逆に、事案を逆手に取るのも一理ありますが。・・・望まないでしょう。誰も」

前任の意思を尊重する刀剣たち(彼ら)は、次の審神者との折り合いをつけていけるはずだ。

「ただ、審神者として派遣される側が、どう思うか。ですかね」

思わず溜息が漏れる。
これは、頭を抱えざるを得ない難題だ。

携帯用通信機を懐から取り出し、刀剣たちの要望の旨を社長へ報告する。

すると。

「“リストを送った”」

との返信がすぐに来た。

通知を開き、添付された資料には、三人の候補が挙げられている。

「仕事が速くて助かります。社長」

これから、最後の一仕事だ。