五十七 ページ7
顔を俯かせ、背ける蜂須賀虎徹の考えている事はよく分かる。
「貴方が、私を選ぼうとも、政府はそれを許しはしません。それこそ、前任の比ではない」
グッと奥歯を噛み締めて、握り拳を作って言葉を伏せるその姿は、あまりにも痛々しい。
「この本丸を想うなら、私の事はお忘れください」
「！ どういう事だ」
「政府からの“勅命”です。“来月より、後任審神者の選考を開始する”と」
顔を上げたその顔には、困惑の色が浮かぶ。
「後任が決まり次第、私の仕事は引き継ぎに移ります。・・・あくまで、私は繋ぎに過ぎません。その事をゆめゆめお忘れ無きよう、お願い致します」
困惑から絶望へ。
光を失うその瞳。
神が人を求めるのは仕方がない事だ。
人が人を選ぶように、神もまた人を選ぶ。
簡単に手に入らないと知れば、それこそ神隠しでもする。
すっかり黙り込んでしまった蜂須賀虎徹に、私にはかける言葉がない。
一礼をし、背を向けて歩き出す。
「待て」
呼び止められ、振り返る。
「はい」
「その選考とやら、俺たちも加わる事は出来ないのか」
「・・・政府次第、でしょうね。一応、確認は取りますが、期待は出来ません。それでも、よろしいですか」
「頼む」
そう決意の込められた返答に、私は頷いた。
「さて、朝餉の支度と参りましょう。すっかり疎かにしてしまいましたから」
「病み上がりだろう？ 燭台切もいるのだ。任せておけばいいだろう」
「元々、日課でしたから。それに、料理をするのは、嫌いではありませんし」
歩く私の後をついてくる蜂須賀虎徹。
思わず、口元に笑みが溢れる。
初めは、あんなに邪険にしていたのに。
この変わりようは、流石に驚いた。
「そうだ、丁度お渡ししたい物があったのです」
「？ 何だ」
「見れば、察しはつくかと」
蜂須賀虎徹は、まだ合点が付いていないのか、首を傾げている。
玄関から台所へ向かう廊下は、既に美味しそうな芳しい香りが漂っていた。
「！ やぁ、起きたんだね」
「ええ。すみません、私が休んでいる間お任せしてしまいました」
「いや、良いんだよ。君の上司に言われるまで、僕らも任せっきりだったからね」
こちらを見て、薄く笑みを浮かべる燭台切光忠に、私はその隣に並ぶ。
「何か、お手伝いしたいのですが」
「大丈夫だよ。作るのは任せて」
「では、盛り付けだけでも。ちょうど、出したい食器があったので」
「？ 食器？」
私は頷いて、綺麗に仕舞われた食器たちに手を付ける。
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作者名：朔夜 | 作成日時：2019年4月8日 14時
