七十五 ページ25
「厄王より、通達が来ております」
「！ アイツはっ、厄王は何と」
一早く反応した薬師に八尾は目を向けて言葉を零す。
「亡者道にて、生者を確認したと。黄泉の女神、黄泉津大神の関与を認めた、とだけ」
三人の顔に動揺が浮かぶ。
互いが顔を見合わせたり、目配せしあったりして、事の重大さを其々が自覚した。
「その通達を受け、誘美様が動かれました。暗部は解体し、後任に大天狗・崇徳を据えて“
「！ “鬼兵隊”をですか？ このタイミングで！？」
思わず驚きの声を上げた私に八尾は益々困り顔をして、裾で口元を覆ったまま肩を上下に揺らす。
「ほとほと目が回る出来事ばかりで、口を開こうにも言葉が詰まります」
「お待ち下さい。誘美様は今どちらに」
「迷い家へと向かわれました。こちらを置いて」
懐から一つの封を取り出して、その表紙を見せる八尾。
『辞表』
「まさか」
「その“まさか”が起きようとしております。・・・誘美様は次の依代として、手を挙げられました」
言葉を失う三人に、八尾は自らから手にする辞表の書かれた封に目を落とす。
「本当に、困ったお
クスリと笑いながらも、哀愁のこもった眼差しが、彼女の本心を浮き彫りにしていた。
「誘葵様は、ご存知なのですか？」
「ええ。取り乱す事なく、言葉を交わす事もなく、見送りもせず。知っていたと言わんばかりの対応をされました」
にっこりと笑い、八尾は私の元へと足を進める。
「朔月、貴女は何も気負う必要は無いのです。そのような顔をしてはなりません」
伸びてきた白い手が私の肩口に触れる。
無意識に眉を寄せ、俯かせていた顔を上げると、八尾は傍に控える犬神に目を向ける。
「貴方も、これで少しは報われるでしょう。・・・人の世を捨て、弟子を守るため犬神となった代償は、計り知れませぬ」
「捨てさせたのは、
「！ 言の葉を話せるようになっていましたか」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた八尾に、犬神は歯茎を剥き出しにして唸り声を上げる。
「怖い怖い。私とした事が、言わぬが花というもの。さて、事態は深刻の一途を辿っております故、話はまた後程」
「亡者道にて生者が確認された件についてお聞きしても？」
上司が控えめに声を上げる。
頷いた八尾に、上司は続ける。
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作者名：朔夜 | 作成日時：2019年4月8日 14時
