六十九 ページ19
「姉は一人ではなかった。けれど、それは“独り”には違いない・・・」
「今、たられば話をする必要はありません」
眉を寄せて俯かせた顔を上げる審神者を見据える。
影を帯びたその瞳に映るのは、彼を新しく主として迎えると決めた付喪神がいる。
「この世とあの世は繋がっています。貴方が天寿を全うし、輪廻を廻るその刻、彼女は輪廻の果てで、待っているかもしれません」
「！ 何故、分かるのですか」
「女の勘、と言うものです」
確証はない。
けれど、彼が無意識に姉である前任に囚われ続ける限り、彼女もまた審神者である彼に囚われる。
「双子とは、時に“奇跡”にも近い縁を結ぶと聞きます。それは不運なものであったり、幸運なものであったり、十人十色ですが」
生と死が分かれ目と言われる現世。
「信じてもいいのではないでしょうか。その“奇跡”を」
叶わないかもしれない夢を描くのは、生きている人間にしか出来ない権限だ。
「生き方は選べます。考えは、捉え方次第で変わります。・・・生き急ぐだけが全てではありません」
「！ っ・・・。生き急いでいるつもりはなかったんです。ただ、
「主・・・」
苦笑いを浮かべて、目を潤ませながら、手に拳を作る審神者は、顔を俯かせた。
「貴女は、僕に“償い”の道を示してくれました。だけど、それに沿うだけの事を為さなければと、姉の様に何か残せるものがあるのかと、ふと考えてしまう」
「考えすぎです、と私が言えたことではありませんが」
フッと漏らした笑みを手で覆う。
俯かせた顔にそっと覗き込む。
「ある人に言われました。生きている間、人は批評され続けるのだと」
影から顔を出した犬神が、私の服の裾を引っ張る。
ちらりと視線を落として、密かにため息を溢す。
「誰に何を言われようと、歩み続けるのは貴方です。歩み終えた先に何が待っているのかを考えたところで、生きている内に知ることはできません」
ポタポタと雫が掌に落ちる。
見開いた目から溢れ落ちる大粒の涙が、審神者の服に染みを作る。
「人の価値は、死によって限られる。限られた生き様が人の価値を見出し、後に残る誰かの心で生き続ける」
ゆっくりと顔を上げた審神者。
目尻から頬を使う涙を拭う事もせずに、彼は霞む視界の先にある此方を見つめていた。
「貴方が彼女を想う限り、彼女は力を貸してくださるでしょう。この本丸に残る面影もその一つ」
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作者名：朔夜 | 作成日時：2019年4月8日 14時
