引き継ぎ屋弐 (ページ13)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:4,357 hit

六十三ページ13

候補として面会を経て、正式に見習いとして男は派遣された。

本来ある見習い期間は、定められていない。

理由は、男の霊力が前任をはるかに上回っており、必要な知識は事前に確認して貰っていた為、後は実践を繰り返すのみとなっていた。

飲み込みも早く、感覚も冴えており、審神者としての資質は申し分ない。

「では、今日はここまでに」

「え？あ、もうこんな時間に・・・」

ただ、明らかに根を詰めすぎている。
姉たる前任の功績は、可もなく不可もなく、卒のないものだ。

地道に積み重ねた努力の賜物。

だが、彼は知識を蓄えてはいるが、実践で臨機応変に動く経験が足りない。

そうなれば、奢り、慢心に走るか、焦り、精神をすり減らすか。

「見る限りでは、後者でしょうね」

「？」

「いえ、失礼致しました。独り言です」

ここで他人に指摘されれば、火を油を注ぎ兼ねない。
もし履き違えれば、心の奥底に根付いた負の念が暴走する。

「眠る前に少し、お時間を頂いても？」

「え？ええ、構いませんが」

「お茶をお持ちします。暫しお待ちください」

一例をし、審神者の部屋から退出する。
笑みを浮かべるその顔は少し疲れていた。

ピチャンッ。

「！貴女は」

水に濡れた姿で庭先に立つ一人の女性。
ゆらりと力なく俯いた顔。
青白く痩せ衰えたその姿から僅かに感じ取れる瘴気。

「如水」

「主様が、主様が・・・っ」

名前を呼ばれて弾けるように上げた顔は、今にも泣き出しそうに歪んでいた。

「限界、なのですね」

縋りつく手が腹部に回る。
しゃくり上げながら、声を殺して泣く如水の背に手を回す。

人の形を保っていられなくなる程、瘴気が及んでいる。
水を司る小さき神様である如水は瘴気の影響を受けやすい。

きっと、如水の主・淡島は彼女に害が及ぶ前に、彼女を遠ざけたのだ。

「暇を申し付けられたのです。迷い家への道も閉ざされました。でもっ・・・私」

「そうでしたか。まずは、貴女の中にある瘴気を取り除きます。丁度お茶を入れようとしていましたから」

宥める口調に、如水のしゃくり上げる声が大きくなる。

「餓狼」

辺りを黒い霧が包み込む。

「落ち着くまで、このままで」

如水が泣き疲れて、元の蛇の姿に戻るまで、その体を撫で続けた。