六十二 ページ12
リストによれば、生家に引き取られたのは、才能に恵まれた弟である彼だけ。
施設に取り残された姉である前任は、施設から引き取られることはなく、養子に出されていた。
それはまるで、不出来な子供を排除しているような、悍ましさを感じさせた。
「僕だけが親に引き取られて、姉さんは居ないものとして扱われました。言葉を交わしたこともなければ、近寄る事も出来なかったんです」
ポタポタッと、一つ一つの雫が短刀達の頬を濡らす。
「でも。やっと、“届いた”」
堰を切ったように、嗚咽を漏らす男。
その姿に寄り添う刀剣達。
私は、静かに広間を後にする。
廊下に出て、男と刀剣達の邪魔にならないように努める。
「ダメですよ。水を差しては」
広間に飛び出していこうとする犬神を制しながら、一応もしもに備えて警戒をする。
「・・・まぁ、万が一は起きそうにも有りませんが」
ふうっと吐き出した息。
綻ぶ口元。
隠すように手で口元を覆う。
ゆっくりと目を伏せ、うっすらと目を開ける。
「良かったですね。これで、貴方も黄泉路へ旅立てますか。
ぼんやりと光る目に映る一人の女性。
その顔は、寂しげに微笑んでいた。
口が動いているのが分かるものの、肝心の声は私の耳に届かない。
「すみません。姿は見えても、聞こえはしないのです」
はっとした顔をして、女性は綻ぶように口元を歪め、深々と頭を下げた。
「どうか、その旅路に仏の加護があらん事を」
顔を上げ頷いたその姿が、霞がたなびくように消えていく。
「これで、一つ前進しました。後は、彼らの思うままに」
生ける者は、死者に囚われてはならない。
けれど、それは死者も同じ事。
死者を救えるのは、生ける者のみ。
業は血を辿り、色濁らせ、中から身を腐らせる。
いつしか、それは呪いとなり、歯止めが効かず、災いとして降りかかる。
見て見ぬ振りも出来たはずだ。
けれど、男は
一族の我関せずという対応に嫌気がさしたのだと。
そう言葉を詰まらせた。
「業は直ぐには消えないもの。途方も無い徒労が付き纏い、人一人の一生で足り得るかどうか」
こればかりは、どうにもならない。
「さて、私は昼餉の支度でも致しましょう。貴方も、粗相がないように」
ポンポンと犬神頭を撫で、代わりに見張るよう言い含ませる。
影に紛れる犬神を見届け、私は一人台所へと向かう。
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作者名：朔夜 | 作成日時：2019年4月8日 14時
