六十一 ページ11
シャンッ。
ゲートをくぐり、こちらに控えめにはにかむ男性。
私は、一礼をしてから側に近寄る。
「お久しぶりです。まさか、本当にこんな機会を設けて頂けるなんて」
「いえ、こちらこそ。大変お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。元々、この子が繋いだ縁ですから」
影から顔を出した犬神に、男は目を輝かせる。
「あ、やっぱりこの犬は」
「ええ。神に部類されてはいます。一応」
私の言葉が気に入らなかったのか、犬神がムッとしたのか、尻尾を振り回しながら、後ろから飛びついてくる。
「だ、大丈夫ですか？」
「いつもの事です。お構いなく。それよりも、まずは中へ。皆さん、貴方の到着をお待ちしていましたから」
犬神を窘めつつ、母屋へと案内する。
「ここは、懐かしい感じがします」
少し歩いて男は呟いた。
視線を上げ、その顔を目視する。
「可笑しいですよね。初めて来たはずなのに」
苦笑いを浮かべるその顔には、戸惑いが隠しきれていない。
広間まで来ると、男は刀剣達に目を止め、大きく目を見開く。
それと同じように刀剣達の視線も男へ釘付けだ。
「主？」
誰が言ったか、定かではない。
けれど、それが引き金で、我先にと手を伸ばす短刀達。
「ごめん、僕は姉さんじゃないんだ。だけど」
伸ばされる手を拒むことなく、一つ一つに触れて、柔らかく、切なげに歪む口元と目元。
「この感じは、“姉さん”だ」
刀剣達の中に残る霊力に、男は感じ取ったのだ。
「貴方は、一体」
不思議そうに見つめる刀剣達に、男は笑みを浮かべたまま答えた。
「僕は、君たちの主人であった前任の弟。そして、新しい審神者になる候補でもある」
刀剣達は戸惑いながらも、花の蜜に集る蝶のように。
惹かれていくのを、誰も止められない。
「！ “拒否反応”はないんですね。貴方は」
「有りませんよ。だって、姉さんのあの体質は、僕のせいなんです」
くしゃりと崩れた笑みを浮かべて、男は顔を俯かせる。
「僕たちは、双子で生まれて、親が死んでからは施設で育ちました。でも、僕たちは一定の距離を置いて顔を合わせることしか出来ませんでした」
「彼女の体質によって、ですか」
「元々、僕らは対等だったはずなんです。だけど、僕が欲張りだったから、“奪ってしまった”」
「！」
ゆっくりとあげた顔。
振り返るその顔は、涙で濡れていた。
「何となくだけど、覚えているんです。あの感覚を」
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作者名：朔夜 | 作成日時：2019年4月8日 14時
