引き継ぎ屋弐 (ページ2)

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五十二ページ2

シャンッ。

一際大きく鳴り響いたその音には覚えがある。

「来訪？」

本丸に備え付けられた結界に外部から干渉があったのだ。

動き辛い体に鞭を打ち、門へと急ぐ。

門へと近づくにつれて、多くの刀剣たちの気配。
言い争う声の一つは、きっと上司。

「何事ですか」

「！おい、馬鹿。出てくんな」

『あ！お久しぶりっすね。犬神憑きのお嬢さん』

ひょっこり顔を出したその顔に、少し目を見張る。
それから、これから何を言われるのかを自覚した。

「隠形鬼(おんぎょうき)。何故、貴方が」

『いやぁ？ただのお見舞いっすね。随分と暗部(うち)の者が失礼を働いたもんで、そのお詫びに来たんす』

「そうですか。お忙しい中、ありがとうございます」

『礼はいいっすよ。相変わらず、無茶ばっかりしてるんすね。ま、貴女の場合、“特例”っすからね』

菓子包みを手渡しながら、手に触れるもの。
触感から紙だとわかる。
ニイッと笑みを浮かべて、手慣れているのだと悟る。

『もう少し時間があれば良いんすけどね、仕事が立て込んでるんすよ。貴女の茶菓子は美味しいっすからね。今度、時間ができたらお茶でもいかがっすか？』

「ええ。勿論」

『そりゃ、良かった。んじゃ、また』

ひらひらと手を振り、去っていく背中。

シャンシャンッ。

外出を知らせる警鐘。

それを聞きながら、妙だと思った。
カサカサと折りたたまれた紙を開く。

「・・・」

紙を裏返し、フッと笑みが漏れる。

「そういう事か」

グシャッと紙を握りつぶし、上司に菓子包みを手渡す。

「部屋に戻ります」

「待て」

「何を受け取った」

「何って、茶菓子です」

部屋へと歩き始めた私。
廊下を曲がり渡り廊下に差し掛かる。

ふわっと吹いた風に香る匂い。
引き寄せられるように、向かうのはあの桜。

根に腰掛け、幹に背を預ける。

「・・・緋桜(ひおう)が亡くなったそうです」

誰に語りかけるでもなく、噛みしめるように言葉にする。

「また、一つ欠けましたね」

立てた膝に顔を埋めて、降りかかる花弁を振り払うのも億劫になる。

さわさわと揺れる桜の枝。
慰めているのだろうか。
フッと漏れる笑みは、誰にも見えない。

「桜は複数の名を持ちますが、“夢見草”というものがありますね」

すうっと目を閉じて、ゆっくり体を起こす。
背を預けた桜に意識を向ける。

すると、誘われるように意識は遠のいた。