届かない虹

28(nishijima) ページ29

○nishijima said



西『さくら。』


雑誌の撮影のため、移動中の車の中。


隣に座るさくらに声をかける。


あ「…。」


イヤホンをして、携帯を真剣に見つめるさくらは気づかない。



さくらがAAAの仕事を初めて1週間。



世間に、さくらのことが公表されるまで残り2日。




1週間前、さくらと初めて声を合わせた時、俺は感動したんだ。



どこまでも綺麗に出る高音の安定感。


遠くまで伸びる響き。




ー ちあちゃんみたいにちゃんと歌うから、1週間後また合わせてください。



帰ってきた秀太にそうやって頭を下げたさくら。



秀太の言ってることが間違ってるとは思わない。


千晃とのパートが1番多かったのは秀太だ。


これから、さくらがずっと千晃のパートを歌い続けるなら、さくらとのパートが1番多くなるのは必然的に秀太になる。



秀太の声とは確かに合わないかもしれない。



だけど、さくらの声にはさくらの良さがある。


それを俺たちがグループとして潰して良いのか？


さくらを









千晃の変わりにして良いのか。









西『さくら。』



今度は肩を叩きながら声をかける。



あ「あ、ごめん。なに？」



イヤホンを外して俺の方を向くさくら。



西『何聞いてんの？』



あ「ちあちゃんがソロで歌ってるUs！」



にこにこしながら答えるさくらに胸が痛くなる。



西『…あぁ。アルバムの企画で1人ずつ歌ったやつね。』



あ「そうそう！」



あの日から、さくらがずっと千晃の声を聞いていることはメンバー全員が知ってる。



自分の声を、捨てるつもりなの？




西『てか、今からの撮影さ、』




少しでも千晃の声から遠ざけたい。



そんな思いからどうでも良い話を振る。


さくらが音楽を止めて俺の話に相槌をうつ。



1週間、常に一緒に居て感じること。



さくらは本当に本当に良い子だ。



努力家だし、愛嬌はあるし、コミュニケーション能力もある。



きっと、千晃みたいな素敵なメンバーになるだろう。



千晃みたいな、だ。





千晃になるわけじゃない。





お願いだから、さくらの良さが潰れませんように。





いつのまにか少しずつさくらをメンバーとして大切に思ってきている自分がいて。





あ「にっしー、今日の夜よろしくね。」


西『あぁ、うん。』



今日の夜は1週間ぶりに声合わせ。



秀太と3人で、LOVE@1stを合わせる日だ。

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