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外は軽く吹雪いており、冷たい風が私の纏った施設内の暖かい空気を剥がしていく。身体はあっという間に冷えきってしまい、厚着をしているにも関わらず、ぶるりと震えた。確認した電光掲示板の気温は、マイナス十度。
空港の出口は質素なバスターミナルで、赤と白と青の、日本の物よりも少し角が丸みを帯びたバスが何台かが吹雪く夜の中で照明に照らされながら鎮座している。
トントンさんはそれらを一つ一つスマホの液晶と睨めっこしながら確かめ、やがて一台のバスを見上げてそちらへと歩いて行った。
ちらりと見上げた彼の手元の液晶の中はロシア語だったし、バスに印刷された大きな文字も空港の看板も、英語のルビが書かれていることはあっても基本はロシア語だ。それが酷く胸の寂しさを掻き立ててしまい、聞いたのかもしれない。私は前を歩くトントンさんの背中に声を掛けた。
「……あの、どうして、私に声を掛けてくれたんですか」
「そりゃさっきも言いましたけど、チケットが勿体なくて。それに泣いてらしたし……親切心？」
そうなんですね、なんて上手くも無い返しの言葉を言おうとして、口の中で塊になって出てこなかった。まるで煙が球体になったみたいだった。私は彼に何を求めていたのだろう、雪の降るこの土地で？ その時の私には、別の言葉の方が幾分か言いやすかった。
「すみません、何か変なこと聞いちゃって」
「あぁ、でも強いて言うなら」
トントンさんは顔だけをこちらに向けて話していたけれど、今度は踵をしっかりと回して私に向き直った。
「スーツケースが一緒だったからですかね」
彼の視線の先は私の目だった。
スーツケースなんて一欠片だって見てないくせに、彼はそう言って微笑んだ。暗い夜だったけれど雪と照明のお陰で辺りはぼんやりと明るかった。色の境も曖昧な空間で、彼の瞳だけははっきりと赤い。
「そうなんですね」
今度は、すんなりと言えてしまった。
上手くも無い返しを。
＊
トントンさんの祖父母宅は、ムルマンスク国際空港からバスで移動した先にあった。アメリカは広い田舎だなんて言うけれど、ロシアも似たような物だなと思った。
街中から少し離れただけで途端に街頭は少なくなって、後はただただ広い土地が向こうの方まで続くだけ。夜の闇で見え辛いとは言えど、そもそも見るものだって無いのだから闇が隠そうとも、どうせ同じだとトントンさんは笑っていた。
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ﾄﾝｶﾂ(プロフ) - 本当に大好きな作品でなんども読み返しました。2人の関係がものすごくもどかしくて本物の恋愛を見ているような気分になりました。素敵な作品をありがとうございます (10月29日 18時) (
レス) id: 2c4f4e3f8f (このIDを非表示/違反報告)
安眠 - ふと思い出した自分に感謝、そしてこんなに素晴らしい作品を生み出してくれた塩ラテ様に尽きることのない感謝を込めてコメント失礼致しました。これからも応援させていただきます。 (2023年1月13日 15時) (レス) @page39 id: 2ea80e16cb (このIDを非表示/違反報告)
安眠 - し小説を齧ってから読んだこの作品の構成やキャラクター達一人一人の立ち方、何より少しほろ苦くいつの間にか酔ってしまう正しくワインのような文の綴りに惚れ惚れしました。語彙力は宛ら、豊富な知識にも少し上から目線なのですが天晴れと思いました。 (2023年1月13日 15時) (レス) @page39 id: 2ea80e16cb (このIDを非表示/違反報告)
安眠 - コメント失礼致します。初めまして、実はこちらの作品は更新していた時から見ていたのですが、何如せん自分の知能と無知故に目を滑らせていたのですが、それでも今の今まで覚えていて、冬である今ふと読みたいなと思い頑張って探させて頂きました。少 (2023年1月13日 15時) (レス) @page39 id: 2ea80e16cb (このIDを非表示/違反報告)
塩ラテ(プロフ) - 天の河さん» こちらでもコメントありがとうございます！とても丁寧な感想にとても暖かい気持ちになりました、本当に嬉しいです。読者の方に場面のひとつひとつを想像して貰えることがとても幸せです。読んで下さりありがとうございました！ (2021年10月5日 20時) (レス) id: 4f7195255d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：塩ラテ | 作成日時：2020年11月27日 23時
