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その表情が本当に酷く苦しそうで悔しそうだったので、二人は思わず吹き出してしまった。人間らしい所もあるのだなと少しだけ認識が変わる。
Aが日本を立ってから、既に三つ程月を跨いでいた。窓の外には、膨らんだ茶色の新芽を付けた木が見えた。
「どうして、俺を置いて行ったと思う」
コネシマはその問に、何処か既視感を覚えた。そして思い出す。以前、Aにも問われたのだ。“なぜ
落とされた灰の目の視線と、あの日の黒い目が重なる。それは、とトントンが次の言葉を繋ぐ前にコネシマが答えた。恐ろしく真っ直ぐで淡々と。
「知らん」
それまで感情を上手く込められていなかった表情を軽く驚きに染め、グルッペンは顔を上げる。それまで背をピンと伸ばし畏まりながら座っていたコネシマは背もたれに背を預けた。
煙草の箱を探しに無意識に胸に手をやり、置いてきたことを思い出してその手を引っ込める。
「正確に言うなら、俺は答えを知っとる。トントンも。でも言わん。そして俺はお前の質問を心底どうでもいいと思った。だから知らん」
トントンはコネシマの態度に一瞬ひやりとしたが、まあ確かにと概ね同意したので否定しなかった。
船と、青空と、色とりどりの紙テープ。赤、桃、橙、黄、緑、水色。紙が煽られその華やかさに瞬きを何度かすれば、他の搭乗者達と同じように色鮮やかなテープを持ったAが甲鈑に現れる。
強い風が吹いて、何よりも黒いその髪が靡いた瞬間、トントンからは髪が隠してしまったその表情を見られなかった。
公表はされず、身内だけに伝えられた渡航日に集まったその中に、確かにグルッペン・フューラーは居なかった。
遠ざかっていく船の形と潮の香りがまだ瞼の裏側に潜んでいる。そしてあの日靡いた髪と。
「……なんでアンタ、追い掛けへんかったん」
トントンは呟くように言った。そしてその灰の目を見ると、瞳が一瞬だけ揺れた。
「資格が、恐らく、まだ無い」
「まだ、ね」
呆れたと言うよりかは、言われた言葉をそのまま復唱したと言う方に近かった。トントンはコネシマと目を合わせたが、コネシマはもう何も言うつもりは無いらしい。初めこそ勢いがあれど勝手なやつだ。
トントンは、どうしてこの目の前の憎たらしい相手に助言をしてやらねばならないのだろうかと疑問と苛立ちを持った。そして同時に、何か期待めいたものを。
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塩ラテ(プロフ) - ユズリハさん» コメントありがとうございます！世界観や各々の考えや言葉の表現などは今回気をつけていた所でしたのでそう言っていただけて本当に嬉しいですｴﾍﾍ好きと言って貰えてにこにこしますねｴﾍﾍ、読んで下さりありがとうございました！ (2021年4月1日 19時) (
レス) id: 4f7195255d (このIDを非表示/違反報告)
ユズリハ(プロフ) - 完結おめでとうございます。感極まって上手く言葉がまとまらないのですがとても綺麗な作品でした。塩ラテさんの言葉選びや作る世界がほんとうに繊細で、その一つ一つが触れば壊れてしまうような、そんな関係性を描き出しているのかなと思いました。本当に大好きです。 (2021年3月31日 3時) (レス) id: 4ab6b4c8e6 (このIDを非表示/違反報告)
塩ラテ(プロフ) - ゆりえさん» 今回もコメントありがとうございます！複雑な人間らしい感情を表現して、それを受け取って下さる事の喜びよ……がっがが我慢！？とっても嬉しいですにやけちゃうな……次回もどうかよろしくお願いします！ (2021年2月17日 15時) (レス) id: 4f7195255d (このIDを非表示/違反報告)
ゆりえ(プロフ) - 完結おめでとうございます。本当に塩ラテさんの繊細な欲？綺麗なのに複雑な感情がわかる書き方が大好きです。読み終えたくなくて、読むの我慢してしまったぐらいです。もう一つの作品も大好きです！次回も楽しみにしています。 (2021年2月15日 0時) (レス) id: a07977b9e8 (このIDを非表示/違反報告)
塩ラテ(プロフ) - 鬼蕗さん» 今回もコメントありがとうございます！沢山の感想まで頂いてしまって……ｳﾋｬｰ凄くすごく嬉しいです！！オールキャラで出すために各々の立ち位置や考え方は気をつけていたのでそこを受け取って下さり感謝です！次回作もどうか見てやって下さい。 (2021年2月14日 22時) (レス) id: 4f7195255d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：塩ラテ | 作成日時：2021年2月12日 22時
