私にだけ意地悪な理由 2《桃

49.[ 岩本さん ] ページ9

明日から再び、出張だ。
今回は二泊三日。岩本さんと一緒だし不安なんて一切ないけれど佐久間はそうでもないらしい。


『ホテル一緒なの？』
「先方がとってくれたホテルだから、一緒のはずだよ」
『部屋は隣？』
「いや……そこまでは分かんないけど」
『ふーん」


スーツケースに荷造りをしているときに掛かってきた電話。第一声からなんとなく不機嫌な感じがして嫌な予感がしたけれど、その予感は的中していた。


「仕事終わったら真っ直ぐ部屋に戻って寝るだけだから…」
『ご飯とか一緒に行くんじゃないの？』
「行く…かもしれないけど、食べ終わったらすぐ自分の部屋に戻るし」
『………』


いよいよ黙ってしまった佐久間。
付き合ってから知った彼の新たな一面。佐久間は意外にも甘えん坊だし嫉妬深い。特に岩本さんに対しての当たりが強くて、二人きりの打ち合わせがあったというだけでちょっと不機嫌になる始末だ。勿論仕事中に明からさまな態度はとらないけれど、二人きりになった時や今日のように電話でその感情をまっすぐぶつけてくる。


「分かってると思うけど、ただの仕事だよ？」
『わかってるよ』
「なら、そんな子供みたいに拗ねないでよ」
『…は？子供？』


電話の向こうで、佐久間がイラッとしたのが感じ取れる。ちょっと言いすぎたかなとも思ったけれど、本当にただ仕事に行くだけなんだから「行ってらっしゃい！がんばれ！」くらい軽く送り出してほしかった。


「……もう切るよ」
『ん。おやすみ』
「おやすみ」


あーもう。スマホをベッドに投げつける。明日から暫く会えないというのに最悪の電話の切り方だ。ただ胸の中に黒いもやもやだけが残り、もう一度電話をかけなおそうか、メッセージを送って謝ろうかと思ったりもしたけれど行動に移せなかった。

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