続４頭の龍が守る桜 ３

膝枕 ページ10

兄様…これでやっと兄様のところへ行けますか？

イチさんの手で鎖が外れて、兄様からの指輪が床に転がったとき心から血が流れる気がしました。

もう、あんな思いはしたくない。
兄様とお別れしたときより悲しいことなんてないけど…

黒沢のためにできることを成し遂げたら兄様のところへ行ってもいいですか？

そうだね…俺もあれは辛かったよ。
Aが苦しくないように連れに行くから。
待っておいで。

＊＊＊＊＊

「乾杯。」

グラスを合わせて少し口に含んだワインは甘くて美味しかった。

「貴腐？」

「ぐらい甘いだろ？でもすぐに酸化して酸っぱくなるんだ。
貴腐じゃないけどこんなに甘いの、開けた時だけ。」

「あまりワインは好きじゃないけど、これなら飲めますね。」

「いつか飲もうと待ってた甲斐があったよ。
Aと飲めるなんてね。
でも結構回るよ、眠らないでね。」

「こういうものも美味しい。
本当にすみれちゃんはすごいですね。」

お皿にきれいに並んだ一口で食べられるおつまみにも工夫がしてあって素晴らしかった。

「あの子の父親は一流の板前だった。
母親を殺めてあの子は施設に。」

「じゃあ、そのお父様の血を引いてるのね…。」

「俺の寄付してる施設はね、犯罪者の子供ばかりが集めてあるの。」

「なぜ？
少し怖い、そんなの。」

「そういう子のほうが使いやすい時もあるの。」

やっぱりこの人は白い竜、悪の匂いを嗅ぎ分ける…持っていないのは真実の愛。

「うちの妻はね、俺に一切逆らわない。
きれいでも可愛くもなくて、才女でも馬鹿でもない、セクジーでもキュートでもない、毒にも薬にもならない人。
全てにおいて過ぎない女。」

「言い方でしょ？
考え方によってはとても素敵な方だわ。
政治家の奥様にはピッタリの方。」

「そう、親父が決めたの。
しかも実家は大手ゼネコンに名前を連ねてる。
だから選挙のときの資金も、組織票もバッチリ。」

「言うことない方じゃありませんか？」

「でもつまんないの。最初から。
全然つまんない。」

ワイングラスを空にして岩田はソファに寝転んだ。
私の膝を枕にして。

「奥様がお可哀そうだわ、そんな言い方。」

「その代わりなんでも好きなことをさせてあげてるよ。
だから今はお友達と海外旅行ばかり行ってる。
日本にいるのは選挙のときだけ。」

「それでも大変なこと。
政治家の妻は顔を上げては地元を歩けないと聞きました。」

「感謝するのと愛してるのは違うだろ？」

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