それでもお兄ちゃん 4

足りない何か ページ31

「月、ここにいるの怖かったら哲也の家行く？
灯里もよく懐いてるし癒やしになる？」

健一に言われたけど、ホントは行って欲しくないのすごく伝わった。

「怖いけど、健一といてもいい？
　お出かけの時はどこか行くから。」

その時一瞬見せてくれた笑顔。
これ、宝物だった気がする。
一人で辛いこと全部抱えてもいいって思った笑顔だ。
思い出した。

「健一、もっと笑って。」

「何？急に。」

「健一の笑ってるの好きなの。
　すっぐくいい顔してるの。」

「改めて言われると照れるんだけど…ありかと。
じゃあここでいい？
気をつけよう、お互い。」

「うん。」

嬉しそうに抱きしめてくれた健一の笑顔は腕の中で見れなかったけど、きっといつもの笑顔だよね？
だけど少し違うの。
もっとね、くしゃって目尻にシワ寄せてね、笑うの。
少しずつ記憶は戻っていく。
でもまだわからないこともある。

なにか足りないような…。
どこにいても落ち着かないような…変な気持ち。

でも、だんだん思い出してる。
健一への気持ち、頼りにしてた自分。
この人だけを待ってた気持ち。
何度かだめになりそうで、持ち直してきた命
だけど…いつか近い未来にマリア様の足元に行く日が来る。
そんな気がして健一を思っていた日々。
でも、何か足りない。
頭の中をどこかにおいてきてしまったような怖さ。
でも、不思議とこの絵を見てると落ち着く。
寝室にある、とある協会のフラスコ画のレプリカ。
苦難に向かう人にだけ涙を流す慈愛の瞳のマリア様。

マリア様どうか健一にホントの笑顔が戻りますように…。

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