WILD DOCTORＳ

恋の始まり〈陽の場合〉 ページ36

あの日は病院で学会があって
兄に頼まれて手伝った。
受付を担当した。

来た方にお名前を書いて頂いて
プログラムと論文の写しを渡す。
問題なくこなしていた。
「すみません、発表者はどこへ？」
声に顔を上げるとステキな人。

ドキドキしながら
その受付に案内した。
「こちらでご案内します。」
その人はお日様みたいに笑って 「ありがとう！」
って言った。
それがその頃はまだ別の病院に
いた哲也さんだった。

いつもなら帰る発表もその日は
哲也さんのを聞いてみたくて残った
お兄ちゃんには明日は嵐か？
なんて言われたけど(笑)
発表の内容は？だったけど(・・;)
声とか仕草とか全部素敵で
こんな人がいるんだって思った。

名前を見たら土田哲也さん。
そ夕食のとき
あの土田君はうちにほしいな。
腕もいいって話聞くし。
外科任せてもいい。
お兄ちゃんが言い出して…
あっという間に哲也さんはうちの
外科のリーダー的存在になり、
兄による手術の公開で有名人になり医者の紹介の本やネットにも出る
ほどの有名な名医になった。

患者さんは全国から来て
今新患者受けれない状態で。
悪い方、お子さん優先という
哲也さんの拘りでチームは動く。

「飲まない？」
誰もいない小さな方の会議室
そこからはきれいな夕焼けがみえる
秘書室には窓がない息が詰まる。
一人静かに夕日を見る
私の大好きな時間を壊したのが
ー声の主。

「え？あ、いただきます。」
とても香りのいい美味しいコーヒー
「美味しいです。香りも好き。」
「入れた人に興味ない？」
「どんな人？」
「土田哲也さん。」
夕日を背に笑う哲也さんはきれい。

その日から夕日になると必ず
珈琲を入れてくれた。
そのうち期待するようになった。
それがある日からばったり来ない。
待っても待っても来ない。
院内をそれとなく見てみたけど
毎日普通に出勤してるし、
お仕事してる。

なんだ…気まぐれだったんだ。
いただきますって
飲んでただけの自分を悔いた。
その日も空は夕焼けで、
見てたら泣けてきて
一粒落ちたら、涙は止まらなくて
一人をいいことに涙も拭かずに
泣いてたら

「涙を止める魔法付きの
　珈琲いりませんかぁ？」
って声。
「下さい。」
「今だともれなくおまけ付
　おまけいりますか？」
「下さい。」
「どーぞ。」
差し出された珈琲はいつもの味。
私の抱き好きな香り。
ぐずぐず言いながらも飲んでたら
涙を指で拭ってくれた。
それから
「おまけでーす。」
って頬にキスしてくれた。

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