雌ライオンはひとりでいい 2

診療所でおねだり ページ13

めずらしくAが診察の終わった
診療所に入ってきた。
具合でも悪いのかな？
もう看護師さんも薬剤師さんも
帰ったけど…。

「ねぇ、せーんせ。」
なんだよ…俺の前に跪いて手を
俺の膝にのせたりなんかして
しかもめっちゃ久々の
その呼び方…ダメだって。ここ職場。

「なぁに？
　なんのおねだり？言ってみ？」
靴か？バックか？お洋服か？
眼鏡を変えたいとかも言ってたな。
買ってあげる。
あ、それとも俺？
仕方ないなぁ…。

「あのね…一度だけ…」
なになに？その上目遣いは
やばいでしょ？
俺なら今夜でも…一度だけなんて
言わなくても…

「被告人面会に…」
「だーめっ！
　だめに決まってんだろ？」
あぶねー負けちゃうところ
だったじゃん。

「お願い、せんせ。」
「だめです。危ない目に
　あってるのに、絶対だめ！」
あ、もうおねだり終わり？
さっさと立ち上がっちゃって
もう少し粘るとかないの？
可愛かったのに…。

「てつやさん、おねがぁい。」
あーそいう作戦できたのね。
後ろから首に巻き付いて
耳元でおねだり。
今まで大体それで負けて
来たからね。
だって耳元とかずるくない？
でも今回は負けない。
がんばれ、オレの理性さん。
君ならできる。
「A、いい加減にしろ。
　何かあってからじゃ遅いだろ？」

「わかった。
　哲也さんのいじわる。
　もうお願いしないもん。」
あーあ、拗ねちゃったじゃん。
でもやっぱり外には出せないし、
将吉先生にあんな傷負わせた
被告人と面会なんてさせられない。
よくやったオレの理性さん。

「ねぇ、A」
「もう寝ちゃいました。」
なんだよ…まだ拗ねてんの？
もう一回ここでおねだりして、
違うことで。

「あのさ、俺はね…Aが心配
　だからね、意地悪じゃない
　んだよ。」
背中向けんなって。
くっついちゃうぞ。
「わかってるからいいの。
　意地悪な哲也さんも
　好きだから。」
好きならもっと甘えようよ。
おねだりしようよ。

「おやすみなさい。」
え、まじで寝ちゃうの？
「ほんとに寝ちゃうの？」
「明日早いんでしょ？
　お寝坊したら大変。」
朝の往診なんて入れるんじゃ
なかった。
だけどあそこのお婆ちゃん
最近苦しそうだからな…。

「おやすみ、A。」
今夜は理性さんと寝ようっと。

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