雌ライオンはひとりでいい 1

ご挨拶 ページ7

次の日は、将吉先生が相手の検事にご挨拶に行こうって言うのでお供したらなんと

「ご無沙汰してます、A先生。」

「相手の検事って…」

「今やエースだよ、岩田剛典検事ね。」

「さすが微笑みの貴公子。」

そう言うと岩田くんは笑って

「勘弁してくださいよ。
将吉先生には負け続きなんで、苦手意識いっぱいですよ。」

２つのうち、１つは岩田君相手。
健一郎さんが基本を教えた検事さん。
被告は、結婚相手の連れ子を殺めてしまった母親。
将吉先生が、なぜこの被告の弁護を受けたのかは、話を聞くまではわからなかった。
もう一つの案件は、以前何度かお相手していただいたベテランの検事さんだった。

「今回、被告に精神鑑定がかかっててさ、今市先生にはお願いしてるんだけど、別の観点からお世話になってる大学の先生がいるから、連れてくな。」

「はい、お願いします。
今市先生とは別の大学の方なんですね？」

「Aも知ってる先生だと思うけどな。」

車のついた先で大学名を見て、もしかして…って思った。
研究室の名前を見て、やっぱり…って思った。

「八木です。ご挨拶に。」

「どうぞ。」

中から聞こえた声に確信する。

「久しぶりだね。」

「ほんとに。」

山下先生の式であったけどね。
健一郎さんだった。
式の時、受付でもらった席次表を見て、少し不安になった。
私の隣はもちろん哲也さん、その隣が健一郎さんだった。

「久しぶりだね。」

でも、かなり久しぶりに逢った健一郎さんは、すごく表情が穏やかになっててホッとした。
私は陽子先生と話してて、あまり話せなかったけど、哲也さんが喜んでたし

「今市先生さすがだ。」

って言ってたから、なんとなくそう思っていたけど…
まさかこうして逢うとは思ってなかったから…

「大丈夫だろ？
　寺辻さんもいいですよね？」

将吉先生は笑顔で言うけど、先生が健一郎さんを検事から追いやったんですよって思いつつ頷いた。

「哲也には言っといてね。」

にっこり笑った健一郎さんはそう言った。
それからは裁判絡みの話をして、研究室を後にした。

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