雌ライオンはひとりでいい 1

野替刑事 ページ43

１０日の期限はすぐに過ぎ、敬浩君と将吉先生にはお断りと謝罪をした。
ひまの話も伝えて、理解してもらった。
ふたりは

「それでも今回は帰る。
だけど何か考える。
しばらくはひまのお母さんしてあげて。」

と言い、将吉先生はひまの頭を撫でて

「ママのこと取ってごめんな。」

って帰っていった。
熱はまだ下がらないけど、いつまでも寝ているわけにも行かず、ひまのこともあるし、起き上がった。
だけどひまはパパのお仕事を見てるのが好きで、最近はおっきくなったらパパとお仕事するって言ってる。
だから中々診療所に行くと帰って来ない。

チャイムが鳴って、出ると目黒署の刑事さん。
健一郎さんが言ってた人だ。
胸板の厚そうな刑事さん。
片岡さんとは全然違うタイプ。
優しいふわっとした笑顔の下に狂気を隠し持っていた殺人鬼片岡さんを思い出す。

「目黒署の野替です。
　体調大丈夫ですか？」

「座ってください、お茶入れますね。」

野替さんの前に紅茶とクッキーを出して座る。

「寺辻先生にも聞いたんですけど、先日車の事故のことで被害届を出されましたよね？」

「はい、寺辻先生に付き添って頂いて、提出しました。」

「犯人に心当たりは？」

「ありません。」

「失礼ですけど、寺辻先生とは元…」

「夫婦です。それが何か？」

「会ったりするんですね。
　ご主人、寛大ですね。」

「あの日は偶然知人のバーで会って、私が忘れた携帯を持ってきてくれただけで…」

まぁ、こういうこと言われてもしかたないよね？

「被害届も私の名前で出しました。」

「と、言うのは？」

「私が携帯を忘れなければ、あの場所に寺辻さんはいません。
だから私かなって。」

「なるほどね…。」

「寺辻さんとお仕事することも多いんですか？」

「離婚後は初めてです。
理由については、田崎法律事務所の八木先生にお尋ね下さい。
私の上司ですから。」

野替さんは私の顔をまじまじと見てる。
なんだろう？

「あ、もしかして？」

「？」

「白いライオン！」

「はぁ、そうですけど…。」

「うわぁ、本物！
いやっ、すいませんっ、あの…
オレ、将吉と仲良くて、その絡みで目黒署来てから田崎事務所にはよく出入りしてて、話は聞いてます。」

「将吉先生と…そうなんですね。
では今回のことは先生に。
車の件は私にもわからないので犯人探してください。」

野替さんは何度も

「今日はすみません」

を繰り返して帰っていった。

健一郎さんとひま→←文字違いです、ひまさん。

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