雌ライオンはひとりでいい 1

解雇 ページ19

山下先生には珍しく、事務所に無言で帰ってくると、カバンを叩きつけるように机においた。
後ろを項垂れてついてきた凪ちゃんに、会議室３番とだけ言って部屋に入る。

将吉先生とアイコンタクト。
そっとしておこう。
凪ちゃんが何も持たずに会議室に入ろうとしたから、珈琲を２つ入れた美月ちゃんがそれを渡した。

「珍しいな、山下先生が女性にあんな風にするの。」

将吉先生は

「溜まってたのが、爆発したんだろうな。」

って言う。限界来たか
何かあったのかな…。
行先ボードを見ると、面会になってた。
まさか…被告人ともめたりしないよね？少し心配した。

敬浩君は、心配顔でしばらく会議室のドアを見てたけど、ため息をついて書類に目を落とした。

「いいかげん、社会人としての常識を身につけんとあかんな。
今回は俺も限界やわ。」

会議室から、山下先生の大声。
敬浩君は席を立ち、会議室に入った。

「被告人となんかあったな。」

将吉先生は、敬浩くんの背中を目で追いながら言う。

「山下先生があんなに怒るなんて、そのくらいしかないですよね。」

「少しはAへのあたりもきつくなくなるといいな。」

「知ってたんですか？」

「わかるぞ見てたら。」

やはり黒豹恐るべし。
将吉先生の前では、おとなしい感じだったのにお見通しでしたか。

「あまりにも嫌なら言えよ。
　考えるから。」

将吉先生は優しい。
周りが見えるし、配慮もできる。
凪ちゃん、憧れてるなら、こういう人にならないと。

しばらく敬浩君と山下先生の大声が聞こえたけど、静かになると、最初に出てきたのは敬浩君で

「A、もう一案件だけ、山下先生のフォロー入って。
大丈夫？」

少し怒りの混ざった声と表情に

「了解です。」

と答えた。
自分のデスクに戻った凪ちゃんは
ハンカチで涙を拭うとパソコンで
作業を始めた。

「A先生、手が空いたら説明したいから声かけてな。」

山下先生に言われて、将吉先生に

「行ってこい。」

言われて山下先生と会議室へ。

「あのな、凪ちゃんの代わり言うと聞こえが悪いんやけど…。
今日解雇されたんよ、あの子。
もう８割は終わってるんやけど、ええかな？」
　
「はい、構いませんよ。
　何があったんです？
　それも一人だけ解雇なんて…」

「こんなに若い女でええんか言われて、喧嘩しよった。
大人で仕事で…わかってへん。
何度止めても、やめんがった。
俺はもう無理や。
教育係も外してもらいたいわ。」

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