いつでもお兄ちゃん 3

蓮と良陽の発表会 ページ16

「これが甚平で〜、こっちがいっくんの服、で、これがおズボン。
色んな生地買ってきたから、見て。
時間は気にしないから、服は大きめで。
無理しないでよ、絶対。」
　
みおちゃんから、宿題をもらった。
初めは、おズボンから作ろうかな。
いっくん用ならゴムだから、すぐできる。
手縫いの甚平は夜、健一といるときにでも。

蓮と、良陽の発表会の服は、幻になった。
ふたりが園に行けず、お稽古に参加できなかったから。

でも、残念がる二人のために、良兄は、みんなを集めた食事会のときに、二人に発表会をさせてあげた。
蒼は恥ずかしがって、絶対にやらなかった。
白雪姫とかぐや姫が仲良く出てくる不思議な劇は、どこかの電話の会社のＣＭのように楽しかった。
楽器の演奏も二人とも上手で、兄たちは嬉しそうに娘を見てたし、陽ちゃん、絵美ちゃんは少しうるっときてた。

「二人とも、大きくなったね。」

健一も赤ちゃんから知ってる二人だから、余計に可愛いらしく、うちに遊びに来てるときは、まるで父親みたいになってる。

「「ありがとうございました。」」

ふたりが礼をして、大きな拍手が起こった。
雪花ちゃんの実家から来てた灯里が、マイクの代わりに懐中電灯を持って歌い出し、可愛さにみんなが笑った。

その時、ポケットのスマホが震えた。
そっと席を立ち、トイレに行くように廊下に出て、メールを見た。

「旦那さんが、泣かせた女子大生の父親が、商工会でも結構大者なんだ。
噂広がると、旦那さんがこの辺で仕事できなくなっちゃうから、とりなしておいたよ。
一応、頭下げといたほうがいいって、伝えてね。」

剛典さんからだった。
やだな…そんなこと健一に言うの。
そしたら、またあの子と絡むことになる。
健一は思ってなくても、あの子は健一が好きで…普通なら、既婚者なんだからと娘を咎める立場の父親が、力を使ってくるなんて。

「ねーちゃんどうした？」

将ちゃんが来て聞かれたけど、

「ううん、少し疲れたから部屋から離れただけ。
もう戻るよ。」

そう言ったら、手を引いて２階に上がっていく。

「ちょっと座って。」

言うから座ると、

「あれから、庭覗いてるやついない？
ほんとにケンチ君、守ってくれてる？」

真剣だ。

「来てないと思う。
そんなに見てたら、ご近所ても話が出るし。
健一はちゃんとしてくれてるよ。」

「ふーん。」

「話があるなら、聞くよ。」

顔を上げた将ちゃんは頷いて話し出した。

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