すなおになりたい【歌い手】 (ページ18)

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あかいたばこページ18

例え彼が嫌だと言ってもこれだけは辞められなかった

脳を犯すようにニコチンがまわって

ドーパミンが私のストレスを溶かすように体内で暴れ回る

いつか付き合った屑彼氏の影響で始めたたばこは

気づけば私の好きな物のひとつになっていたらしい

ベランダに出て、

坂田が起きないうちに朝を吸う

流石に朝からお小言は嫌

こういうときだけは坂田が遅起のお寝坊さんに感謝。

寄生虫のように坂田の家に入り浸っている私は

朝の一人でベランダにいるこの時間が好きだ。

なら家に帰れよって思うかもしれないが、

私の家と都内の坂田のマンションじゃ

見える景色がまるっきり違うのだ。

いつも思う。

こんな生きてる価値ない屑が彼女で申し訳ない

申し訳なさは感じるが、別れる気はない

勝手にベランダに椅子まで置いちゃって

私のものがひとつずつ坂田の家を侵食している

朝6時、まだ世間が目覚めだした時間に

のんびりとゆっくりと走る車と遠くの電車を眺めて

それに吹きかけるように煙を吐き出す

朝はいつもより肺に届く煙が妙に気持ちよかった

ただの気分でしかないのだが、、、

気まぐれで起きてきたのか、今日は早起きさんな彼が

咳をしながら眠気眼で抱きついてくる

あぁ、1本無駄にしちゃうな、そうは思うけど

彼氏の健康の方が優先だから

まだ生きているたばこを灰皿で潰した

『ん"んっ、おはよ』

「おはよ坂田、部屋入りな煙たいでしょ」

『まだ吸ってたん、やっぱ辞めきらん？』

「ごめんね、私の一部だから」

ゆるゆると手を引かれて部屋の中へ戻される

春もなったばかりの朝はまだ冷え込む

『手冷たい』

不満そうに言われたのは流石に謝った

ソファーに座った坂田に手を引かれて、

坂田の上に跨る形で座らせられた

ふわりとソファーにかかっていた毛布を掛けられて

まだ残る寝起きの坂田のあたたかい体温と毛布とで

寒さは温もりへと変わっていく

辞めれないのだ。口寂しいから

小さい頃から飴やらガムやら

口にずっと入れていたから

たばこはその名残のようなものだった

『なぁ、Aすきやで』

「な、なに、いきなり」

吐息が混じる毛布の中

口内を犯す坂田の舌が私の脳を侵食していく

『口寂しいなら、Aの気がすむまで俺がキスしたる』

「ぇ、」

『だから、煙草辞めて』

「ぁ、待って、んｯ」

付き合って、2ヶ月…

10代最後の春の朝

軽いキス止まりだった私たちは大人なキスをした

__あかいたばこ