♯40 真実への道 中編 ページ45
「クロサキだ。
・・・と言っても仮の名前にすぎないが」
「仮の名前?」
「ああ。
・・・分からないんだ。自分に本来の名前を名乗る資格があるのかどうか」
「どういうこと・・・?」
彼は不思議そうに訊く。
「私は影だ。人間の心の闇から生まれ、愛や友情を知ることなく生きてきた、いわば『出来損ないの人形』だ。
他人は決して信用しない・・・筈だった。
___けど お前達は違った」
「・・・!!
もっと聞かせてよ、君の事。
さっきから 何となく君に既視感を感じているんだ」
『本当の姿の僕達は 過去に会っている』…
ノイズの言葉が 頭の中で響いた。
「それもそのはずだ。私は___」
これ以上、言葉として発することができなかった。
そのかわりに、私はヘッドホンを外し 彼に手渡した。
「この曲がなければ、お前達が二人になることは なかったと聞いた。
私が影になっても ずっと忘れられない曲だ」
「まさか・・・!」
「とりあえず聴いてほしい。
彼はヘッドホンをかけた。
「やはり君は・・・っ・・・!!」
この曲を聴き始めた彼は、苦しそうに胸を押さえた。
「僕を救いに来てくれたんだね・・・」
___救った?
私が?
「さっきまで僕は、とても長くリアルな夢を見ていた。でも、夢というより 過去の出来事をそっくりそのまま繰り返しただけのように感じた。
その夢のお陰で、僕は魂の一部を失ってると気づいたけど、どうすればいいのか分からなくて戸惑っていたんだ。
そこに来てくれたのが君だ。
それに これまでの言動からして、君は僕にも影が居ることも知ってるみたいだね」
「・・・偶然会っただけだ」
と私は少し照れながら言った。
自覚は一切無いが、「救ってくれた」と言われてちょっと嬉しくなったのかもしれない。
「ありがとう。
___御咲A、
これが君の本当の名前でしょ?」
「・・・ああ」
彼に見つめられるうち、ノイズを好きになったときには無かった 胸の苦しみを感じた。
「好きだよ。・・・ずっと前から」
___思い出した。
彼の本当の名前を。
「・・・・・・矢守・・・くん・・・」
私もだ。
そう言おうとしたが、口にはなかなか出なかった。
すると彼は、おもむろにピアノの前に座った。
「お陰で僕達は 消滅する運命から免れそうだ」
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作者名:夜桜音羽 | 作成日時:2015年6月28日 18時