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♯32 衝撃 ページ37

「ありがとう、A!」

「Aちゃんホント優しいね!」…


いやみでも何でもないが、私は昔から、周囲から「優しい人」として見られていた。悪く言えば、はっきりノーと言えないタイプである。
運動は今でもかなり苦手だが、勉強は割と出来る方だった。


・・・にもかかわらず、いつから、どうして私の心に 闇が芽生え始めてしまったのだろうか?
合唱コンクール以来、何度か自分の口に出てしまうことがあった。その度にどうにかやり過ごしたが。

それに、前から時々見るあの変な夢は一体・・・。
あの夢で聞こえてくる変な声は 少しずつ鮮明になってるものの、いまだに意味は分からない。

私達はもうすぐ進級し、二年生となる。
このまま私は どうなってしまうのだろうか?


ピンポーン

突然 玄関のチャイムが鳴った。

「はーい!」

急いで階段をかけ降りる。
誰だろう・・・。

「あ、どうも」

ぺこりと会釈したのは、響だった。

『矢守くん!どうしてここに・・・?』

「あの、これを渡したくてさ」

響から渡された紙袋を受け取った。
そう、今日は正式に付き合って以来初めてのホワイトデー。
とは言ったものの、すぐに冷やかすバカが多くてなかなか学校で話せないのだけど。

『ありがとう!でも何でわざわざ家まで・・・?』

私がそう訊くと、響の顔が少し暗くなった。

「大事な話があるんだ」


響が重い口を開く。


「ゴメン・・・引っ越すことになったんだ」


___え?

一瞬にして、頭の中が真っ白になった。
言葉の意味が飲み込めない。飲み込みたくない。


「だから来月からは、僕は柑渚中には居ない」

嘘だ。
でもこれは 夢などではない。

『・・・どこに引っ越すの?』

何とか言葉を絞り出した。
彼によると、引っ越し先は遠いけど「会えない距離ではない」そうだ。
ショックのあまり、これ以上言葉は出なかった。

「じゃあ、そろそろ帰るね。また明日!」

『・・・うん』

そんな、突然すぎるよ・・・よくありがちな恋愛ドラマじゃあるまいし。

今思い返すと、私は幼い頃、響と幼稚園でよく遊んでいた。
一緒にジャングルジムに登ったり、画用紙で指輪を作ってくれたり、手紙を書いたり、時々家にお邪魔したり・・・

___その時から好きだった。


部屋に戻るなり、大粒の涙が(こぼ)れた。
こんなに泣いたのは いつ以来だろうか。
身体を震わせ、喉が痛くなるくらい 夜まで嗚咽した。

夜空には、この残酷な運命を嘲笑うかのように 満月が輝いていた。

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作者名:夜桜音羽 | 作成日時:2015年6月28日 18時

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