【イナオリ】元強化委員監視係は世界で戦う〈5〉 (ページ11)

今日:21 hit、昨日:1 hit、合計:58,381 hit

第210話ページ11

「突然押しかけて申し訳ない」

「ああ……日本代表の野坂くんだね。それに氷浦くんと稲森くんとAさん。あと、君はロシアのマリクくん」

「よく知っているんだね」

「当然だよ。敵の情報収集は怠らない主義だ。Bonjour、はじめまして。僕はフランスのキャプテン、ナタンさ。寝たままですまない」

ナタンくんはそう言って明日人と握手を交わす。

「いえ……ぁっ…」

ナタンくんの目の端には、涙が滲んでいた。

「悔しいね……僕らは本当ならフィールドで出会うはずだった。戦いたかったよ……それなのに」

「――――っ……」

私は痛くなる心臓を服の上から押さえる。

「俺たちは、その無念を晴らすためにここに来たんだ」

「君たちを、フランスチームを助けたい」

私たちはナタンくんから話を聞く。

起こったことを、全て。

・

「で、そのナタンって奴からは何を聞き出せたんだ？」

灰崎が歩きながら私たちに聞く。

「キャンプでの食事メニューは徹底的に管理されていて、毎回専属シェフが調理しているらしい。昨日から今朝にかけてのメニューは特に気を使っていたらしく、シェフが選手よりも先に毒味をした」

氷浦の言葉に灰崎が顔をしかめる。

「はぁ！？じゃあなんで全員食中毒になったんだよ」

「一つだけ、キャンプ内で管理されていないメニューがあったの」

私は灰崎の方を見ずにそう続ける。

「なんだ？そりゃ」

「それは、フランスパン」

フランス選手にとって、焼きたてのフランスパンを食べることはメンタル強化に繋がるらしい。

だからフランス選手は毎食、有名パン職人が焼いたパンを外部から運んで食べていた。

オリオンはそのフランスパンに食中毒菌を加えたんだと思う。

オリオンはきっと、証拠となるフランスパンを全て燃やしてしまっている。

だけど奇跡的に、フランス選手の1人、パスカルくんがフランスパンをこっそり1本お腹が空いていたから頂いていたらしい。

そのフランスパンは、キャンプの部屋のベッドの下にあるとのことだ。

私たちはフランス宿舎に行き、ベッドの下を確認する。

するとそこには本当にフランスパンがあった。

それはそれで結構問題だけどね……

私たちはフランスパンを持って宿舎を出る。

これでナタンくんたちと戦える。

その気持ちでいっぱいだった。

その時、野坂の携帯に電話がかかってくる。

画面には"一星光"の文字。

どうしたんだろう…