【鬼滅の刃】何故か既婚者にとてつもなく求婚されるんだが【宇髄天元】

・名前を呼ばされて呼ばれたんだが【後編】 ページ31

角から顔を覗かせると、音柱様が縁側に座っているのが見えた。

肘置きに左腕を乗せ、書物を読んでいる。


...どうやって話しかければいいんだろう。

いきなり"天元様"と呼んでも不自然な気がする。

でも、いつも通りに呼んでは機会を見失ってしまうかもしれない。


私が一人で葛藤していると、ふと音柱様が書物から顔を上げた。

その視線は角に隠れていた私に向けられ、私の姿を捉えると「何してんだ」と笑う。



『...雛鶴さん達が、蝶屋敷に薬を取りに行ったので、その報告に』


「...そんだけ？」



いや、それだけではないのだが。

完全に機会を見失った私がその場から動けずにいると、

音柱様は立ち上がって距離を詰めてきた。

条件反射で後ずさりした私の顎を救うと、からかう様な笑みを浮かべる。



「名前呼びに来たんじゃねぇの？」


『な、何で...』


「言っただろ、耳がいいって。お前らの声なんて筒抜け。

　それよりほら、せっかく練習したんだし実践しないと損だろ。な？」



我妻くんや音柱様には劣るけれど、神経が鋭い私も聴覚はそれなりに優れている方だ。

そんなに私の鼓膜を音柱様の低くも優しさの含んだ声が刺激し、私は唇を噛み締めた。



『......天元様』


「んー？」



搾り出す様に名前を呼ぶも、この人が素直に受け取ってくれるわけがない。

音柱様は聞こえているにも関わらず聞こえていない風に首を傾げる。



「もっかい言って」


『て...天元様...』


「聞こえねぇなー」


『...もういいです』



こっちは真面目なのに何なんだ。

音柱様の反応に不満を抱いた私が音柱様の手から逃れる様に顔を反らすと、

「悪ィ悪ィ、虐めすぎた」と反省の色が見えない言葉が返って来る。



「これで最後にするから、俺の目見て呼んで」


『...天元様』



それを信じて音柱様を見て名前を呼ぶと、ふわりと優しく抱きしめられた。



「ん。ありがと、A」



この甘い声も、私を丸め込むためのものだと知っている。

『絆されませんからね』と言えば、「ちぇ」とわざとらしい舌打ちが返って来た。



「これからは"音柱様"はなしな？」


『...善処します』



だとしても、最後は結局丸め込まれるのがお決まりだ。

・嫉妬されたんだが→←・名前を呼ばされて呼ばれたんだが【前編】

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