ガチ恋一直線ライバー【knmc】

遘∝茜遘∵ｬｲ ページ36

小狐を初めて見つけた日、酷い雨が降っていた。小さなあの子は足から真っ赤な血を垂らして、教会の外れにある木の根元に横たわっていた。












｢………小狐？｣


私の声は震えて、殆ど音にならなかった。腹が抉られ血溜まりの中に、小狐が横たわる。まるであの日の再演みたいに私の網膜には映った。ただ違うのは、出血の量が倍以上になっている事だけ。


叶に見せなきゃ、って小狐を持ち上げてその軽さに驚愕する。いつも暖かい毛は血で濡れて冷たくて、私の服を真っ赤に染め上げた。いつ死んでもおかしくなかった。


｢小狐？ねぇ待って小狐、死んじゃうよ。どうしよう、死んじゃう。小狐が死んじゃう。どうしよう、カナエぇ｣


死、とは何より恐ろしく忌み嫌うもの。だからみんな私の元に来る。死にたくないって泣き叫んで、私に跪く。



『獣にその力は使っちゃダメだよ。いくら酷い怪我でも死にかけても、僕らが介入したらその子の全てがめちゃくちゃになるんだ。それは百万分の一の確率かもしれないけど、でも、もし。……ううん、なんでもないよ。……分かった？A。


………絶対にダメだからね』



｢死んじゃだめ、小狐｣


力が巡る感覚がして私は小狐の傷を両手で抑えた。目をつぶってそこに集中すれば、血が滴っていた毛皮はいつの間にかそこだけ水気がなくなり、まっさらな毛が生え揃っている。冷たかった小狐は、そこに指を通せば血の巡る暖かい体温があった。


安心したら力が抜け、その場にへたりこむ。私を呼ぶ声が聞こえても、私は眠る小狐を抱き寄せたまま動けなかった。


｢っAさん！大丈………、それ｣


トウヤの視線は私の真っ赤な服で止まって、次に小狐を映した。


｢……どうしよう｣
｢Aさん、｣
｢約束破っちゃった。カナエ、ダメって言ったのに｣
｢……大丈夫だから、Aさん｣


帰りましょう、身体が冷えてますよ。












｢どうして力を使ったの｣


カナエは私に問うた。怒りも悲しみも何も無い瞳で、私を映す。


｢で、でも。死んじゃった方が可哀想だよ、カナエ｣


カナエは何も言わず私を抱きしめた。私はカナエの表情なんか知らず、ただ彼の抱擁を受け止めた。





……眠り続けた小狐が目を覚ました時、私はやっと己の罪の重さを知る。獣じゃなくなってしまった小狐は、生も死も、はたまた彼が還るべき場所でさえ、私に奪われていた。

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