思い焦がれてときめいた【仮野明日那】 ページ9
「あっ、Aちゃん!」
特徴的な声にぱっと振り向けば、白いナース服を身に纏う、とっても可愛くてかっこいい大好きなひと。
わたしが車椅子を動かして明日那さんの前まで行くと、明日那さんはぽんと頭を撫でてくれた。
「今日はもうリハビリ終わった?」
頷けば明日那さんはそっかそっか、と笑う。
わたしが車椅子に乗ってリハビリを日々行っているのは、足を滑らせて大きめの怪我を足に負ってしまったからだ。
骨は折れてしまったものの、幸いだいぶ綺麗に折れたらしくてあまり痛くはなかったし、回復もかなり早い。
よかった、と思うべきなんだろうけど、回復が早いということは退院も早いということで。
明日那さんはここで働いている看護師だから、退院したらもう会えなくなってしまう。
明日那さんに会いに病院に来るのも変だけど、だからといって他の場所で会えるわけでもないし。
「どうかした?」
ふいに、顔を覗き込まれた。
突然視界に入ってきた整った顔にびくりと肩を揺らして、だ、大丈夫ですと言う。
「それじゃあ、わたしはお仕事に戻るね」
そう言いながら手を振られて、一生懸命振り返す。
少しだけだったけど、今日も明日那さんに会えたから幸せだなぁ、なんて思いながら病室に戻った。
それから、もうだいぶ回復していたこともありすぐに退院になった。
まだ完璧に歩けるようにはなっていないけれど、もう捕まって歩くことはできるので、あとは家でリハビリをすればすぐに歩けるようになるでしょう、とのこと。
明日那さんとはお別れ。
仕方がないのはわかっているけど、もう一度だけ会って話せたら。
そう思って退院までの間病院内を回ってみたけれど、残念ながら明日那さんには会えず、わたしはお別れもできずに退院になってしまった。
それから、わたしが家でのリハビリに励む間、世間は大変なことになっていたらしい。
わたしはリハビリも兼ねての散歩くらいしか外に出ないし、家族もわたしのサポートと仕事に付きっきりで忙しかったことで、幸いにも''大変なこと''に巻き込まれることはなかった。
リハビリが終わり、綺麗に歩けるようになる頃には仮面ライダークロニクル、なんていうゲームは絶版。
周りからいなくなった人はいたもののそこまで多くもなく、世間は元通りになった。
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作者名:L | 作成日時:2022年3月18日 23時