I Love Youを隠してみせて【花家大我】 ページ26
「先生、あのね」
一歩先を歩く花家先生を呼び止めるみたいに、ぽつりと呟く。
花家先生は足を止めないまま、少しだけ振り向いた。
防波堤に打ち寄せる波の音がやけに大きくて、顔を背ける。
温い潮風が頬を撫でた。
「わたし、海好きなんだ」
「そうかよ」
「うん、それにね」
興味なさげにそう返す花家先生に、まだ終わらせないぞと言わんばかりに続ける。
海も、山も、街も、先生の廃病院だって。
生まれて初めて見て、初めて知って、世界はこんなに楽しいんだと驚いた。
きっと不完全なわたしには、この世界で生きていくことはできないだろう。
バグスターは人間にはなれないし、人間のように幸せになることも叶わない。
仕方がないことだけど、もし人間に生まれていたら、わたしもみんなみたいに笑えただろうか。
ぽつり、ぽつりと話すわたしの前を、何も言わずに歩く花家先生。
止まるどころか相槌も打たないなんて、ほんとデリカシーも何もないな、と思った。
「最初からわかってたんだ、ここにいちゃいけないこと。でも、先生と初めて話したあの日から、わたしずっと幸せだった」
「…何が言いたい」
まるで別れの挨拶みたいだ、と話しながら思う。
先生もそう思ったのか、結論を急ぐみたいに足を止めて振り返った。
ぶっきらぼうで素直じゃなくて、でも誰より優しいわたしの大好きな人。
心配しなくても、死ぬ直前に愛の言葉を吐いたりなんてことはしない。
そんな呪いまがいなもの、あなたに遺してたまるものか。
好きも愛してるも死にたくないも、何も言わない。
だからどうか、せめてこれだけは覚えていてほしいのだ。
「花家先生と出会えてよかったっ」
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作者名:L | 作成日時:2022年3月18日 23時