検索窓
今日:9 hit、昨日:6 hit、合計:12,557 hit

ページ ページ25

「…Aは、俺を忘れるのが怖くないのか?」


Aのコーヒーを飲む手が止まった。
言わなければよかったと後悔するも遅く、恐る恐る逸らした視線をAに戻すと、ばちりと目が合った。


「ごめん、なんでもな―」


「怖いに決まってるよ」


俺の言葉を遮って、Aが言う。
その瞳は少しだって揺れずに、俺を真っ直ぐ見据えていた。
コーヒーを静かに置いて、Aが本に手を置く。
黒いインクで綴られた文字を優しく撫でながら、そっと口を開いた。


「きっと、ずっと好きだったんだ」


思いもよらない言葉に、唖然として瞬きを繰り返す。
何を、と聞こうとして、今は静かに聞いていようと飲み込んだ。

目を伏せた彼女が、まるで本に書かれた文字のように滑らかに、吐き出すように言う。


「きみが、桜井侑斗という人間が。私の記憶には何一つ残っていやしないのに、きみの所作を知っている。………それに、愛しいと思う」


ああそうか、と思った。
Aは、俺を忘れたくて忘れてるわけじゃない。忘れる側も辛いんだと、わかっているつもりだったのに。


「きみは私を縛り付けてしまっていると思っているかもしれないけれど、縛り付けているのは私の方さ。今もこうして、きみの都合のいい人間になろうとしている」


そうすればきっと、俺はAから離れられないだろう。
忘れてなお自分を想ってくれるAに、現実を突きつけずにいてくれるAに、俺は酷く甘えているんだ。

さらりとした長い髪、甘い声、香るコーヒーの香り。
どこまでも彼女に似ている。
未来の俺がどうしてあの人を選んだのか知りたくて、たまたま似ていたAを選んだ。

不誠実な始まりだったのに、それをわかった上で俺を縛り付けるAはきっと、どこか狂っているのだと思う。
そして、そんなAを愛している俺も。

狂っていたって、なんだっていい。
この都合が良くて愛しい彼女が、ただ家で俺の帰りを待っていてくれるのならば。

I Love Youを隠してみせて【花家大我】→←紅茶の方が好きだけど【番外/桜井侑斗】



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (20 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
35人がお気に入り
設定タグ:エグゼイド , 特撮
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:L | 作成日時:2022年3月18日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。