【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ10)

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ありがとう、好きでした(fj) ページ10

「俺も後悔ばっかりだけどね」
「なんかそんな気がする」
「んだと」

拗ねる先生にクスクス笑った。
先程まで警戒していたが、どんどん警戒心がなくなっていった。話しやすい先生だと思った。

「フジ先生って、先生っぽくないね」
「よく言われる。向いてないのかな？」
「初めてだよ。こんなこと誰かに話したの」
「俺だってこんな臭いこと言ったの君が初めてだよ」

お互いに顔を見合せて笑った。

「お互い初めてを捧げちゃったわけか」
「なにその変な言い方」
「この煙草うまいな。俺もこれにしようかな…」
「なら、次は先生が私に頂戴ね」
「先生に煙草をねだるなよ」
「生徒に煙草をねだった先生がよく言う」

煙草をすべて吸い終わった先生が、吸殻を隅に捨てて火を足で消す。

「さて、戻るか」
「先生先に行ってよ」
「おう。ちゃんと授業受けろよ不良娘」
「はいはい」

私に念を押してくる先生に苦笑いして軽く手を振る。
先生は私を横目に屋上の扉に手をかけるが、そこで動きを止めた。その様子に首を傾げる。

「どーしたの先生」
「……いや、最後に一つだけいい？」
「なに？」
「さっき話してた人のこと、まだ好きなの？」

その言葉の意味がわからなくて、先生を見上げる。
先生は何を考えているのかわからない表情で私を見ていて、その心中が読めなくて戸惑った。

「……好き、なのかな」

自然に、無意識に出た言葉は自分でも笑えるくらい曖昧な返事だった。

「なんだそれ」

苦笑いを残し、先生は「そっか、わかった。じゃあね」と屋上を去った。
先生、何を思っていきなりそんなこと訊いたの？そんなこと女に言うとすぐ勘違いしちゃうよ。

「変な先生、だな…」

ああ、もう煙草の残り少なくなってしまった、また買わなきゃ。
お小遣い減っちゃうけど、余分に一箱買おうかな。

そんなことを思いながら屋上から出た。