終わりの見えない時(ky) ページ35
「何か忘れ物？」
「ん、今日やる課題忘れて帰るとこだったんだよ」
「そりゃ思い出せて何より」
「まったくだよ」
自分の席の中に忘れられていた課題を手にしながら笑って鞄の中に入れたキヨくんが、そのまま私の席の前にある椅子に腰掛けて向き合う。まさかそのまま帰らずに、わざわざ私の席の前に来ると思ってなくて吃驚した。
「どーしたの」
「いや、意外だなって思って」
「意外？」
「Aさん、結構周りより浮いて見えるからさ」
「はい？」
改まって何を言うのかと思えば、予想外過ぎる言葉に面食らって返事も思い浮かばない。わけがわからず疑問ばかりが生まれる私をよそに、キヨくんはニッとはにかんだように笑う。
「悪い意味じゃないよ。ただ、Aさんって、クラスの奴らより大人びた雰囲気あったからさ」
「そーかな？」
「うん。だから居残りして頭ひねってる姿見るの、すごい新鮮に感じる」
これは何とも言えない感情に支配される。大人びた雰囲気を出していたつもりはまったくもってないのだけれど、キヨくんにはそー見えていたとして、そんな私が今居残りしているわけだから、そりゃ私自身も微妙な感情になるわけで。これが世を騒がせるギャップという類いに入るのなら、こんなギャップいらないし望んでない。
「なんと返せばいいのやら」
「貶してるわけじゃないんだけど、悪く聞こえたなら謝るよ」
「いやいや！居残りになってるのは事実だし」
キヨくんが謝る程のことでもない。そんな風に思われていたことは別にして、居残りになってるのは紛れもない事実なわけだし。キヨくんは悪くない。キヨくんにとって今の私が意外なら、逆に私から見た今のキヨくんも意外に見えるのだから。
「私はキヨくんの方が意外に見えるな」
「え？どこが」
「クラスの人気者なキヨくんが、わざわざ私なんかに話し掛けてきたことが、すごく意外」
「えー、俺結構Aさんに話し掛けてたつもりだけど」
「え？そーなの？」
「うん」
居残りしている理由も忘れて、私は目の前に座る彼の言葉に興味を抱く。
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作者名：わたがし | 作成日時：2020年5月11日 9時
