【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ32)

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自己肯定感皆無(hr) ページ32

この年になってお酒を初めて飲んだ時、今まで飲んだことない飲料に目眩がした。煙草を初めて吸った時、喉にくる噎せかえる程のきつい痛さに涙が出た。初めてブラックコーヒーを飲んだ時、

「……っにいっがっっっっ」

あまりの苦さに顔がすごい歪んだ。お口直しにミルクを飲んだ。私のお口はまだまだお子様。

「ははは、すごい顔」
「……」

目の前にはパソコン開きながら苦笑いを浮かべる彼がいる。そしてそんな私を尻目に彼のために準備したブラックコーヒーを普通に口に運び、普通に飲み込んだ目の前の男。

「……おいしい？」
「ん？うん。とっても」

いつもなら彼に微笑んでもらえると、とても嬉しいはずなのに今はまったく嬉しくない、解せない。

「お酒飲んだんだけどさ」
「あー、どうりで流し台に酒瓶があったのか…」
「煙草も、吸った」
「…どーしたの？」

「Aちゃんなんかあった？」とパソコンから私へ目線を移した彼。私はテレビで流れているバラエティー番組を見ながら、ポツリと独り言を吐き捨てる。

「…私さ、ヒラに釣り合わなくない？」
「本当にどーしたの。らしくないよ、そんなこと言うなんて」
「だって、私はお酒飲めないし！」

お洒落も詳しくないし、お酒も飲めない煙草も吸えない、コーヒーですら飲めない。朝飲むのはいつも、コーヒーのヒラとは違って私はミルク。
ヒラみたいにゲームが得意ってわけでもないし、仕事なんて時給の安いバイトを毎日やって…正直自分の小遣い稼ぐだけで精一杯で収入なんてまったくない。

「こんな私の、どこに釣り合う要素があるの」

あなたなら、きっと…私なんかより

「Aちゃんは、自信ないの？」
「…はい」

俯いたまま動けない。今前を向いたら泣いてるって知られる。私は意地を張って下を向いたままでいると、キィ…と椅子を引く音がした。足音がこちらに来る。