【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ24)

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月が綺麗ですね(ky) ページ24

「英語の授業で生徒がI love youの一文を『我君を愛す』と訳したのを聞いて、『日本人はそんなことを言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい』って言ったらしいぜ」
「………。」

その話は聞いたことがある。
だけど、なんで今のタイミングでそんな話を？

「あの、さ……キヨ？」
「ん？」
「なんで…そんな話を私に……？」
「俺がこの後そう言って、勘違いされたら困るから」
「ぇ？」
「月が、綺麗ですね」

さっきまで夜空に浮かぶ満月が綺麗だと思ってたのに。
今の私ときたら、単純なのだろうか。満月なんかより、目の前の男が綺麗に見えた。月明かりに照らされて、儚げに笑う彼が…。

「……。…、………」

こんなの…ズルいよ、キヨ。
私、なんて返せばいいの？

「A」

唇が震えてうまく返事ができない私の頬に優しく触れたキヨ。寒くて震えてるのか、返事をするのが怖くて震えてるのか、自分でもわからなくなっていた。
しかし、その温かく優しい指先に、思わず唇が動いた。

「…死んでも、いい」

途端、優しく彼の胸に引き寄せられた。
月の光で淡く、そして優しく照らされた世界にはとても似合う程に、彼は優しく温かだった。