【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ23)

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月が綺麗ですね(ky) ページ23

今宵は満月。綺麗な丸いお月様は、見事なくらい夜空にぴったりで思わず見上げてしまう。風も弱く、若干冷える時期ではあるが私は構うことなく満月に見惚れていた。

「なにしてんの、閉めろよ虫入るだろ」
「……、」

風流を楽しんでいたというのに、ロマンの欠片もない実に現実的なことを言うその声にすべてが台無し。
ゆっくり振り返ると、眉間に眉を寄せてあまりいい表情とは言えないキヨが立っていた。
私に近付いて来て、同じように窓から外を見ているが肝心な空を見上げない時点でアウトである。

「せっかく綺麗な夜空なのに、ロマンの欠片もないね」
「あ、空見てたんか」
「逆に何見てると思ったの」
「近所？」
「いや犯罪」

軽く恐ろしいことを言うキヨだけど、私がそんな風に見えると言うのか。と文句を言ってやろうと思ったけど夜空を見上げて「うわぁ綺麗な満月」と圧巻されてるキヨを見たら文句も消えた。

「でしょ」
「月かぁ…」

小さく独り言のように呟いたキヨは、続けて「なあ」と私に話を振ってきた。私はその声に耳を傾けたまま月を見上げて、「んー？」と適当な返事をする。

「夏目漱石って知ってる？」
「あー、小説家だよね」
「そう、その夏目漱石の話なんだけどさ」
「うん」

なんでいきなり夏目漱石の話？一度は誰もが耳にしたことのある有名な小説家の名前だけど、何故今この場で彼の名前が唐突にキヨの口から発せられたのか、私には理解できなかった。