【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ15)

今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:7,271 hit

死に場所を共に(hr) ページ15

私は動揺しているのだろうか、この男が軽々しく口にした言葉は、私の耳にはイカれてるように聞こえた。死にたいなんて口にした私がこの男をイカれてると云うのは可笑しな話だけど、本当に本心から思ってしまった。
だってそーじゃないか、私だけが死ぬならまだしもこの男は自分も一緒に死のうと口にしたのだ。私に生きろと言うわけでも同情するわけでも、死にたい理由を訊くわけでもない。ただ、単純に、一緒に死のうと笑って呟いたんだ。

「…頭大丈夫？」
「なんでそーなるの、ひどくない？」
「可笑しなこと言うからじゃん」
「俺結構的を得た回答したつもりなんだけど」
「どこが」

「いやだって、なんて言っても意味ない気がするじゃん？病んでる時って」とぼやく男。
もはや私は病んでる扱いですか。まあ間違ってないから別にいいのだけれど、それをわざわざ口にされるとこちらとしてもいい気分にはなれたい。
だからってあなたが私と一緒に死んでどーなるという？なぜそんな結論になるの？
私とあなたの関係をちゃんと理解した上でその言葉を口にしたの？私はあなたの嫌いな食べ物も、好きな食べ物もわからないような他人に近い存在だというのに？かろうじて、皆からよく呼ばれているあだ名がわかる程度の関係なのに？一緒に死のうって？

「どーかしてない？」
「うわぁ、ひどい。そんなまじでドン引きしないでよ」
「なんで他人のために自分の命無駄にできるの？」

知らない人ってわけじゃないけど、私達の関係には世間一般的に名前がない。しいて言えば他人寄りの関係で、私はあなたのために何かをする義理がないんだよ。逆もまたしかり、あなたが私のために死ぬ理由がないんだけど。
どーしてそんなこと軽々しく口にできるの？……なんて、考えてる辺り私はかなりめんどくさい女だったりするのかな。

「私なんてほっといた方がいいよ。もしかしたらすんごいめんどくさいアバズレかもしんないから」
「それはもうちゃんと頭に入れてるから大丈夫」

否定されないってつまり私めんどくさい女って思われてるんだねやっぱり。わかってたつもりだけど社交辞令でもいいから否定くらいしてよ。あまりに素直過ぎる返事をされて、私自身なんと返せばいいのかわからなくなった。