死に場所を共に(hr) ページ14
本当に心からつらくなって、生きることに疲れた時、私は軽い口調で冗談を吐くように「死にたいなぁ」と呟いてみる。そしたら大概の人はまともに受け取ることなく軽く流すようにして「生きろよー」と返すんだ。
実に滑稽で面白味もない馬鹿馬鹿しい中身のない会話。そう、いくらつらくて死を口にしても真に受けてもらえない不便な世の中になった。
そして明日、もしも本当に私が死んでいたなら、その時になってその言葉の意味を痛感する、愚かな生き物なのが人間というものだ。
「生きるってなかなかつらいもんだね」
息を吐き出すようにして呟いた言葉は、無意識に自身の唇から漏れた小さな弱音。ただ息を吸って吐き出すだけの行為を生きることと云うならば、人にとっての一生とはなんと呼べばいいのだろうか。
「どーしたのいきなり」
「えー？いやなんか、死にたいなって思ったの」
「つらいことでもあったとか？」
「うん」
脳では何も考えず吐き出した言葉を、律儀にすべて拾って返事を返してくる男。自分の弱音を人に聞かれるというのは、何とも言えない気持ちになるなぁなんて、他人事みたいなことを考える。
なんで私はこの男に弱音を吐き出しているのだろうか、自分でもよくわからない。
べつに彼と特別仲がいいわけでも、だからって気を許せる感じの人でもない。私的には、他人以上友達未満だと思っている。自分でそー思っている相手に弱音を吐くなんて、私はどーかしてる気がした。
「つらいことかぁ」
「うん」
「そりゃつらいね」
「うん」
第三者が聞いたら滑稽に思えるほどこの会話には中身が無いように感じる。でもむしろそれでよかったのかもしれない。真面目に受け取って「なにがあった？話くらい聞くよ」なんて安い優しさを見せられるより幾分か気持ちが楽に思えた。
このまま何事もなく、何の変哲もない日常的会話のような返事をしてこの話題を蔑ろにしたかった。我ながら笑えるほどに矛盾した私の思考回路に反吐が出そうになる。私はいつからこんな構ってちゃん精神になったんだろうか。
「じゃあ一緒に死のっか」
「……は？」
まるで友達と普通に話すように、ヘラヘラ笑ってとんでもないことを呟いた男。思わず声が裏返ってしまうほどに予想外過ぎる回答をされて、私は目が泳いでしまう。
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作者名：わたがし | 作成日時：2020年5月11日 9時
