ありがとう、好きでした(fj) ページ13
「君にはいろいろ感謝してんだよ。受け取っとけ少女よ」
「何もしてないよ私」
「俺が感謝してるの」
軽くデコピンされて額を押さえた。
痛くはなかったけど、少し剥れる。
「煙草ならいらないから」
「やめた奴にわざわざ煙草渡すわけないでしょ！」
「じゃあ何これ」
「帰って開けてみ」
「今は駄目なの？」
「だめ。誰かに見られたら怒られるから」
なんて言うフジ先生の言葉に肯定して、私は鞄の中にそれを入れた。
「屋上以外で先生と話すの初めてだね」
「そーいやそーだね」
「…」
会話が続かない。早く先生も行ってくれればいいのに、先生はここから一歩も動かない。
「まあ、その…先生、今までありがとう」
「なんだよいきなり」
言うことがなくてとりあえず頭を下げたら笑われた。私も我ながら何やってるんだろうと思う。
「頑張れよ」
「うん」
それっきり会話が途絶えた。外から聞こえる生徒の声しか聞こえない。沈黙が暫く流れ、私はその重さに耐えられなくなって鞄を握った。
「あの、私帰るよ」
「A」
帰ろうとした時、先生に呼ばれて思わず足が止まった。
名字すら私の口から教えたこと、そーいえば無かったのに…なんで名前を…？
「おかげで、研修期間楽しかった」
「っ…」
「早くいい人見つけなよ？先生応援してっからね」
私は走った。涙が止まらなかった。
先生、ズルいよ。なんで、最後の最後で…そんなこと言うの？
学校から飛び出して誰もいない住宅街を歩きながら自宅に向かっていた。涙を拭いながら歩いていた。
ふと、鞄の中にある先生から貰った物を思い出して取り出してみる。プレゼント風に包まれた物の包装を取って中を見ると、箱があって蓋を開けるとチョコレートが入っていた。
「……」
一つ摘まみ、口に入れる。
「…苦い」
先生、私チョコレートは甘い方が好きなんだけど。なんだか笑える。
子供相手に苦いチョコレートを選ぶなんて、先生も中々わかってない人だ。
蓋の裏に書いてあった文字を見て、私は更に笑った。視界が歪む程笑った。
先生、それ…今更言わないでよ。
『Aのことが、好きでした』
まったく……、男ってどいつもこいつも、女心をまったくわかってないんだからっ…。
「私も、好きだよ…フジ、先生」
また一つ、忘れられない恋をした。
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作者名：わたがし | 作成日時：2020年5月11日 9時
