【短編集】恋する君の唄【実況者】 (ページ11)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:7,265 hit

ありがとう、好きでした(fj) ページ11

研修中でこの学校に来ている先生の印象は、周りの生徒からも良好な様子で、私のクラスでもかなりの噂の的だった。
その裏では、あの屋上での出会い以来、先生とは屋上でよく出会うようになった。
屋上では他愛ない会話をするくせに、廊下や教室で顔を合わせても素知らぬ振りをしている先生にはさすがに豆鉄砲くらわされた。
人柄的に、もっと気さくに話し掛けてくるのかと思っていたら…、ひどい人だ。
私達の仲は屋上でのみ許されるらしい。

「煙草いる？」
「お、ありがと～」

相変わらず生徒から煙草を普通に受けとる先生。
あの日と違うところがあるとすれば、それは私の心境だと思う。私から差し出された煙草を先生は受け取って、安物のライターで火をつけて煙を吐き出す。

「勉強どー？ちゃんとやってんの？煙吸いたくて集中力切らしてるとか言ったら怒るからな俺」
「勉強は…まあ、ちゃんとやってるよ」
「本当かぁ？なんだその曖昧な返事」

「心配だなぁ」と漏らす先生に口を開こうとしたが、喉まで出てきていた言葉を無理矢理飲み込んだ。

あの日から、こーやって思わせ振りなことばかり言う先生に私は正直戸惑っている。私だって意識しちゃいそうになる。
失恋の傷もまだ癒えてないはずなのに、先生が気になって仕方ないなんて…惚れっぽいにも程がある。
煙草を吸って空を仰ぐ先生を横目にため息を吐き出した。

「なんだどーしたぁ？悩みでもあるのかぃ？」
「まあね」
「なんだなんだ？恋の悩みかぁ？」

「先生が訊いてやろーか？」とニヤニヤ笑う先生に、もう一度ため息を吐き出して私も煙草に火をつけた。

「先生には関係ないよ」
「ひどい」

そう、関係ないよ。だって、先生はずっとここにいるわけじゃない。
私のこの気持ちも、きっと無意味に終わりを迎える、開花することない蕾のまま。

先生の気持ちはよくわからないけど、きっと何とも思ってないんだろう。終わりが見えてる恋に、わざわざ足を突っ込む程、私も余裕がない。

「先生」
「ん？」
「私、煙草やめるよ」

今吸ってるので、もう終わる。と呟いて笑う。
終止符を打とう。

「……そーか」

先生はそれ以上何も言わなかった。
ただ、口から吐き出される煙をボーッと眺めていた。