黒の皇帝 (ページ30)

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嶺亜「疾風」

風呂から出た俺を呼ぶ嶺亜の声はすごく優しい。

ちょいちょい、と手招きされて髪を乾かす用意をしてくれる。

優しくタオルドライをし、ヘアミルクを馴染ませる。

ヘッドマッサージみたいに頭皮を刺激してくれて、それが気持ちよくてスキンケアの手が止まってしまう。

嶺亜「手」

止まってる、と足で軽く蹴られた。

怒られたからスキンケアを再開しつつ、鏡越しに嶺亜を眺める。

綺麗な可愛らしい顔でどこか満足そうに俺の髪を乾かしている。

泊まりに来ると嶺亜はいつも俺の髪を乾かしてくれる。

毎回のことだけどそれがすごく嬉しい。

『嶺亜は上手いよなあ』

嶺亜「何が」

『人の髪乾かすの』

嶺亜「お前の髪は散々乾かしてきたからね」

少し得意げに俺の髪を撫でる嶺亜。

『飛貴は下手だったから』

嶺亜「なに、浮所にも乾かしてもらってんの？」

『いつもは俺が乾かしてるんだけど、この間泊まった時は乾かしてみたいって言ってたからやってもらったんだ』

ドライヤーの音が止まる。

嶺亜「疾風」

『っ、わ』

嶺亜が後ろから抱きついて、首筋に頭をぐりぐりと押し付けてきた。

嶺亜「…他の奴の名前出さないで。嫌だ」

くぐもった声は消えそうなほど細い。

『なんで』

嶺亜「意地悪だなお前」

『ふはっ、でも好きなんでしょ？』

嶺亜「……うん」

『俺も好きだよ』

ぎゅ、と抱きしめて顔をみれば茹でダコのように真っ赤な顔をしていた。

両片想いはこれでおしまい、かな。

ほんとはもっとロマンチックに言いたかったけど、俺達はこういうのがいいんだと思う。