sound (ページ34)

今日:14 hit、昨日:36 hit、合計:92,909 hit

34 ページ34

.

　「レシートのお返しです」

　レシートを渡して、何個かに分けた袋を少し店員さんの側に押す。…そう、普通だったらこれで帰っていって、会話なんてできないのに、こーちさんの時は不思議と会話になって、今みたいに話すようになったんだよなー。

　普通の会話するタイミングなんて、見つけられない。感謝も伝えられない。

　「あの、」

　この人が帰ったらまた商品の入れ替えをしなきゃなー…なんて思っていれば目の前の人はそこから動かず、私を呼び、何か聞きたげに声をかけてくる。

　「はい？」
　「あ…えっとー…」

　あの時みたい。ドラックストアで、のどに効くものを教えてくれた時みたいにちょっと、ワタワタした感じ。

　でも、なんとなくその雰囲気で察した。あっちも、私をこの間の人だって気付いてる。

　「この間はありがとうございました。喉のやつ、めちゃくちゃ効いて…すっかり良くなりました」
　「あぁ、それは、よかったです。…気付いてた、んですね」
　「それはむしろこっちのセリフと言うか…」
　「確かに、そうかもですね。あの声はちょっとインパクト、あって」
　「それは失礼じゃないですか？」
　「あぁ…そっか。すいません」
　「いえ、…本当は自分でもあの声、ひどいもんだと思ってるんで」

　一度話してしまえばポンポンと会話は進んだ。やっぱり店員さんは私のことを気付いていた。あのひどい声まで覚えていて。

　「きれいに、治ってよかったですね」
　「あ、りがとうございます」

　お互い社交的ではない、ようだ。ポンポンと進んだ会話も一度止まってしまえば先はなくて、無理やり伸ばしたような言葉にお礼を言うことしか出来なかった。

　その気まずさはあちらも感じたようで、何個もの袋を一気に持とうとする。重いだろうなー、と思うしかない私はその様子を見届けることしかできない。頑張れ、店員さん。

　「では、」
　「ありがとうございました」

　出口に向かって歩いていこうとする店員さん。レジ台から荷物が降りたと同時にその重みが一気にかかってきたのか「おっと」なんて呟く。

　また心の中で「頑張れ」と呟いたところで、入店音が鳴る。

　「いらっしゃいま…って、えぇ…？」

　定型文の挨拶を言って途中で止まってしまう。だってそこには見覚えのある人しかいなかったから。しかもその人たち、迷いなく、商品を見るわけでもなくこっちに来るんだもの。