Wake up (ページ16)

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森「行くから！」

　急いでそれだけ伝え、返答も聞かずに電話を切る。そんなに遠くないし、と少しビビる気持ちを誤魔化して、ジャンバーのフードをかぶって家を出る。

　えらいよな。雷の時に傘はダメって子どもながらにちゃんとわかってたんだから。

　走って2分もないくらいのところにあるAの家に着くまでの間に雷が鳴らなかったのは奇跡なんじゃないかって思う。

　ピンポンを鳴らすのもなんだか惜しくて、Aが一人ということはわかってるし、幼馴染だし、まぁいいか、と玄関のドアを押してみる。…勝手に開ける、という選択肢を選んだ俺も悪いとは思うが警戒心というものをAには教えた方がいいと思う。

　「…しんちゃん？」
森「A」

　音を聞いてかのそのそとリビングの扉から顔を出す。その目はうるんでいて今の今までは泣いていたことを証明する。その顔につられるようにAのもとに向かう。“大丈夫？”なんて見たらわかるようなことを確認しようとしたタイミングでまた大きな雷が鳴る。また小さく声を漏らしたのを見れば聞くのなんて野暮で、見て分かるくらい震えていた手を握る。

　「ごめん、きてもらっちゃって…」
森「近いし気にすんな」
　「…ありがと、なんかおちつく」

　リビングの端っこで二人、手を繋いでそんな話をすればAは力なく笑う。その姿にまた守らなきゃ、みたいな感情が湧いてその手をもう一度強く握った。

　高校生になってもAのそれは変わらなかった。

　その日は大雨だった。だから外の部活と、体育館に割り振られていない部活は全員校舎の中で走ったり筋トレしたり。結構な人数で校舎が割れるんじゃないかと思うくらいだった。

ジ「こりゃ帰るまでやまないね」
森「だなー。ジェシー傘ある？」
ジ「さすがに朝から降ってたからあるよ！」

　筋トレをしながら外を眺めていれば遠くの空が光った。そして少ししてゴロゴロという音。…こりゃまずいな。

ジ「雷までなってるよ。こっちまでくるかな」
森「来ないでほしいな」
ジ「慎太郎、雷苦手なの？かわいいとこあんじゃん！」
森「違うって！俺じゃないから！」
ジ「俺じゃない？…ってことは？」
森「Aだよ。あいつ雷すげー苦手だからさー。気付いてないといいけど」

　俺らみたいに外を眺める、なんてことしないで真面目に走ってたりしてればいいな、それで気付かずにいればいい。…なんて願いは叶わなかった。