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「そうそう!暑くて大変って話してたとこなの!ね!隼人!」
田中くんナイス!と心の中で叫びながら「暑い」ということをアピールすれば、隼人の視線も少し柔らかくなる。
「…まぁ、そんなもんか。」
樹「つーかお前さぁ…」
田中くんと隼人が2人で話し始める。私のよくわからない、多分ゲームの話。
その隙に私は自分の姿を確認する。スカートの丈、大丈夫。ボタン…も大丈夫、髪はちょっとアウトだったけど。化粧…はちょっと崩れてるかもしれないけど、別になんてことないだろう。よし、大丈夫。
樹「じゃ、ごめんなー。邪魔して」
「ほんとにな」
樹「ごめんって。じゃーね、Aちゃんも」
「じゃーね」という言葉に「じゃーね」とだけ返す。ありがとう、田中くん。本当に助かったよ。
「じゃ、帰るか」
「うん」
グッと手を引かれる。あー…田中くんのおかげで少し落ち着いてはいるけど、やっぱり、まだ…。
靴を履き替えて、手を繋ぐ…というよりも手首を掴まれて、引っ張られながら歩く。言葉はない。無言。気まづい。
髪の毛、結んだだけじゃん。それくらい好きにさせてよ。
と思いながら、口には出せない。出した方が状況が悪くなる。
「あ、あの…隼人?」
「…」
「あの、家、近いから、もう、大丈夫…」
「…」
無言は無言でも、松村北斗の時とは違う。雰囲気が違えばこんなに気まずさが違うのか。
「なぁ、」
急に発された隼人の声に驚いて、変な声が出そうになるのをグッと堪える。そして、その声と同時により強く握られた手首の痛みによって出そうになった喉の音も耐える。代わりに何気ない声で「なぁに?」と返した。
私の声にクルッと振り返る隼人。あぁ、よかった。頑張って表情作っといて。口角くらいは上がってるはず。
「そんな、暑い?」
「え、まぁ、暑い、よ?」
「髪、結びたい?」
「えっと…それは…」
結びたい。暑いし、何よりも元々ヘアアレンジとか、そういうの好きだったもの。やりたいよ。でも、やったらあなた、…怒るじゃん。
「たまーーに、かな?別に、下ろしてるのも好きだよ?」
「そう?」
「そう!それに、隼人、下ろしてるの好きでしょ?」
ニコッと音が付くくらいに笑いながら言って見せれば、不安そうで、悲しそうな表情をしてた隼人が安心したように微笑む。今日初めて笑ってるの見た。…これでいいんだ。
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作者名:天羽 | 作成日時:2023年6月18日 16時