苦い

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京「“秘密の関係”なんてカッコつけたから、だよね。ごめん」
　「もういい！それはもういいよ！…でもさ、一個気になるんだけど」
京「…ほんとに一個？」
　「一個…じゃないかもしれないけど。なんでさ、その…そういうときだけ、名前で呼ぶの、いいって言ってくれたの？」
京「そ、れは…」



　また言い辛そうにする。その目をじっと見れば観念したように小さく息を吐く。



京「いいじゃん、そういうの…。普段は呼ばれない名前で、そういうときだけ呼ばれる感じ。こう…アガる。っつーか」
　「…ようするに、“秘密の関係”をかっこいいって言ってたのと同じ感覚？」
京「ま、そんな、感じ。…でもAも分かるでしょ！？想像して。付き合ってから名前の呼び方変わる感じ、とか」
　「…そう言われたら、わかる、かも」
京「でしょ？だから、呼ばれるの緊張するけど、そういうときだけは呼んでほしかった、みたいな…」
　「ばっかだねぇ…」



　口ではそういう言いながらもどうにもにやけてしょうがない。


　ひとまず自分が持ってた不安や疑問は無くなって、安心感と愛おしさがもう爆発してしょうがない。



京「…あの、」
　「ん？」
京「…これから、どうします？」
　「どう、というのは？」
京「多分、すごい不安にさせたし呆れさせた、でしょ。…別れるって、言われてもしょうがない、と思ってて」
　「…この状況で別れるっていうと思う？」
京「いや、それもそう、なんだけど」



　抱きついて話してる。…しかも、自分の上がる口角が抑えられないから顔は笑ってるだろうし。その状況で別れる、なんては言わない。


　一瞬それもよぎっていたけど、今はもう、そんなのは思わない。思わない、けど。



　「けど代わりにね、もうやめよ」



　ポンと出た私の言葉に一気に不安そうな顔をする。


　この別れるかどうかの話で不安がる顔を見るのも私が初なのか、と変な優越感。…ってそうじゃない、そんな不安そうな顔をさせることを言いたいわけじゃない。



　「“秘密の関係”はやめよ。私たちは付き合ってる。」
京「…よかった。そのことで。」
　「不安だった？」
京「ドキッとした。…“秘密の関係”、やめるよ。もうこれからは不安にさせたくないし、ちゃんと慣れて余裕ある感じでかっこつけたい。」
　「かっこつけなくていいって。かっこつけてなくてもちゃんと好き。中二っぽくイキってても、全部が初めてでも好きだから」

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