71 ページ22
.
いつの間にか出ていたお金を指でとって、レジにしまう。その間もキャッキャと、少しわざとらしく話す二人。その声が耳に入るたび申し訳なさは加速する。
そんな時、ジェシーの笑い声にかぶって聞きなれた、何度も聞いた低い音が聞こえてくる。
それが聞こえた瞬間、もうだめだった。仕事をすることで少しだけ引いていた涙が一気に出てくる。下を向いていたらレジの中に落ちそうだったから、顔を上げれば、ギョッとした顔をする二人。そりゃそうだ。我慢してたのに急に我慢できなくなってんだもん。2人からしたらきっかけもなく。
我慢できてないしもう見られてしまったけど、やっぱり誤魔化したくて、こぼれかけの涙を制服の袖でごしごし拭う。
そんなことをしているうちに聞こえる入店音。それと同時に「あ、ジェシーと慎太郎じゃん」なんてのんきな声が聞こえる。その呑気な声でまた決壊。
ジ「こーちぃー…ちょっと、助けて」
高「助けてってなんだよ…って、あー…そういうこと」
情けないジェシーの声と近づく足音。こんなことになってるけどバイト中。ごしごしとまた涙を拭って息を吐いて、顔を上げる。
「いらっしゃいませ」
高「お話、したんだ」
「…した」
高「そっか。頑張ったね」
「…そういうの言われるとダメだって」
元々ひどい顔に拍車がかかってるだろう。何度も目をこすったから化粧も崩れてるだろうし、目も余計に腫れただろうし。でも、そんな顔の女がまだ泣いていても優吾くんは優しい顔で微笑んでこっちを見ててくれた。言葉と表情で、また涙が出る。
勇気出して話してきた。それが結局怒鳴り合いになったけど。ひどいこともいっぱい言ってきた。でも、自分のことと気持ち、それは頑張って伝えてきた。
話してもっと状況が悪化したこととかひどいことを言ってしまったこととか。優吾くんは知らない。知らないからこそ「話した」ということに対して言われる「頑張ったね」がすごく染みた。なんでこの人は、じわっと染みてくるような言葉をくれるんだろう。意図して？それとも素で？
涙を顔を両手で覆って隠す。仕事中なのに、我慢がもうできなかった。
ジ「…こーちは、何あったか知ってるんだ」
高「何があったかは知らない。けど、そのきっかけ？はなんとなく…」
ジ「…そう、なんだ」
ジェシー達もまだいるのに。レジも途中なのに。
グスグスとしたままの私の頭にふわっと柔らかい感触。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 354人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：天羽
| 作成日時：2022年11月30日 3時
