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お酒を飲みながら樹さんに適当に返事をしているうちにいつの間にかお互い敬語は取れていた。取れていたし、適当ながらもちゃんと話は聞いちゃうし、話しちゃうし…。
なんというか、距離の詰め方、うまいんだろうな。その感じも手馴れてる感を助長させる。
樹「Aちゃーん?だいじょうぶ?」
「だいじょーぶ。」
樹「大丈夫って言うけどさ、目がもう酔ってんのよ」
「お酒飲んだらそりゃ酔うでしょ」
樹「そうだけどさ、普段あんまり飲まないのにそんな酔ったら、絶対後悔するよ?」
「しないしない。だから放っといて」
さっき頼んだお酒も飲み終わり、また樹さんに聞きながら頼んだカクテルを飲みながら答える。これも飲みやすいけど、お酒って感じだなー。なんてのんきに考えてる頭はフワフワしてるし、視界はたまにユラユラ、ボヤボヤする。
酔ってる、んだよな。こんな感じ、あんまりなんないから分かんないけど。
樹「…酔ってもさ、やな事は忘れらんないよ?」
樹さんの声に思わずピクッと反応してしまう。…なんで。
樹「やっぱり、やな事あったんだ」
「…別に」
樹「びしょ濡れで急に入ってきて、ずっと悲しそうな顔してたらさすがになんかあったんだとは思うわ」
「…」
樹「そのくせ、こういうとこ慣れてなさそうだし、隙だらけだし…。心配になっちゃったから、声かけたんだけど……俺でよかったら聞くよ?何があったかくらい」
「酔って忘れるより効果あると思いますよ?」なんて柔らかい声で言われてしまって、なぜか目に涙が浮かぶ。…酔ってるから、しょうがない。ってことにしたい。
「…彼氏と、別れた。」
酔いに任せ、少し勇気を出して話し出せば口から言葉はポロポロ零れる。それと同時に涙も一緒に落ちるから、それを拭いながら話す。その姿は子どもみたいだったかもしれない。
こんな面白くもない話を優しく聞いてくれる樹さん。低く少し掠れた声で相槌を打ってくれる。…最初のイメージとはもう真逆、すごく優しい人なのでは?と心を許し始めてしまっていた。
樹「…そっか、悲しかったねぇ」
「だから、もう、ヤケ酒なの。…雨宿りがバーなのも、運命だと思う」
樹「…運命、ね。確かにそうだ。…飲んでるお酒にも運命感じるわ」
「おさけにも?」
飲んでるお酒にもって、種類の事?だとしたらなんで?
酔った頭ではうまくそれを考えることが出来ず、首をかしげて樹さんを見る。
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作者名:天羽 | 作成日時:2022年6月15日 2時