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樹「なのに…なんで?いつ?」

樹「俺が付けるの見るたびに“痛そう”とか“私には無理”とか、言ってたくせに」



 私の腕を掴んでいたのとは反対の手が私のピアスに触れる。当てつけのように樹と同じ場所に開けたそれ。位置が同じ事には気付いているんだろうか。


 …というか、バレないように髪の毛で隠してたのに、油断した。視界の中で揺れる髪の毛が邪魔で、よけてしまったから、見えるようになっちゃったんだ。



樹「…俺、やっぱやだ」
 「…」
樹「Aがいないの、耐えられる気がしない」



 目を見て言われ、少し揺れてしまう。



樹「…ねぇ」



 私に呼び抱えるように弱々しく出された声に、思わず口が開いてしまう。



 「もう嫌なの。…こんな関係、苦しいの」



 思わず出た言葉。ポロポロと出てしまった言葉に吹っ切れる。消えるまで、どこにも出さないつもりだったけど、もういいや。どうせ最後、もう会うことはない。全部、言ってしまおう。その方が、納得してくれるかもしれない。



 「気付いてるんだから。私のほかにも女の人がいることくらい。…その中の一人でいるの、もう嫌なの。元々、こんな関係なるつもりなかったし」


 「私には、樹だけ。だけど、樹はそうじゃないでしょ。そんなのもう、耐えられない」


 「だから、やめるの。もうこんな気持ちでいたくない。このままだと、私は幸せになれない」



 元カレで出来た傷を樹が癒してくれて。治った上に樹によって作られた傷。離れる覚悟を決めて、会わない期間を作って。その間に塞いだはずなのに、カサブタのようにポロポロと剥がれ落ちては言葉として吐き出される。


 直接的な言葉では言わなかったが、伝わっただろう。私の気持ちは。



樹「…それって」



 目を丸くした樹が小さく呟く。ほらね、やっぱり気付いたんでしょう。察しのいい人。



 「そうだよ。…好き、になっちゃった、っ樹のこと…っ」


 「だから、やなのっ…こんな関係」



 一番単純で、短い言葉をぶつけた瞬間にポロポロと涙が出た。カサブタの内側にある血のようにドロッとしたものを含ませて一番の本心を言う。


 好きだから、こんな関係はやめる。


 それだけの事。



 ボロボロと涙をこぼす私。私の気持ちを聞いた樹はどんな気持ちなんだろう。そんなことを思いながら、「最後に」とまだ触れられたままの耳と腕のぬくもりに甘えた。

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作者名:天羽 | 作成日時:2022年6月15日 2時

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